あれから忙しく毎日が回っている。
この間、任されたカフェの事もあって俺も忙しくしている毎日。
この短期間で色々なことがあって、全然自分の時間が取れていない気がする。
結局、車の免許もとれなかったしな・・・困ったもんだ。
俺の中では免許取得も簡単にさえ思えたのに、まさかバックがあんなに難しかったとは。
なめるのは本当に良くない。
やっぱり電車移動がしばらく続きそうだ。
電車と言えば、うちの会社にも電車が好きな奴がいる。
俺も電車は好きだけど、俺以上に好きな奴がいるんだよな。
「アメックスさん、東京メトロが一番カッコイイですよね!」
「東京メトロより小田急だろ~!」
「いえ、絶対東京メトロですよ!!」
「そうか~?」
そう熱く語っているのは、Tokyo Metro To Me CARD Prime。
年会費は初年度のみ無料となっていて、東京メトロに乗車するたびポイントを貯めることが出来るようになっているお得なカードとなっている。
カードの利用額に応じて、ボーナスポイントがもらえるようになっている。
東京メトロをよく利用する人にとっては、嬉しいクレジットカードになっているんだ。
Tokyo Metro To Me CARD Primeは電車が好きで、通勤も電車を利用している。
最初は真面目な奴だと思っていたが、結構気さくで面白い奴だと知った。
女性の割には電車をこよなく愛していて、俗に言う電車女というもの。
机の上にも電車のペン立てが置かれているし、スマホには駅のホームにある看板がストラップにしてつけられている。
「アメックスさん、今度東京メトロの旅しましょうよ!」
「東京メトロの旅?!」
いきなり言いだされて、俺は驚いてしまった。
東京メトロの旅って、つまり永遠に東京メトロを乗り継ぐってことだろ?
山手線なら一周したら終わるが、東京メトロは終わりが見えない気がするんだが・・・。
俺が黙っていると、Tokyo Metro To Me CARD Primeが覗き込むように見てきた。
まるで子供みたいに目を輝かせながら、俺をじっと見ている。
・・・・はぁ、断れない状況とはこういう状況のことなのか。
俺も電車は好きだけど、一日中乗っているほど好きな訳じゃないんだよな・・・。
「・・・わかったよ、付き合ってやるって」
「やった、じゃあ次の土曜日でお願いします!」
「次の土曜日って、明日じゃないかよ!」
「そうでーす!」
Tokyo Metro To Me CARD Primeは笑いながら言う。
カレンダーを確認すると、土曜日は明日だった。
明日って言ってくれればいいものを、次の土曜日とかいうからまだ日にちがあるのかと思った。
行動を起こすのが早いな・・・。
Tokyo Metro To Me CARD Primeは“雨でも決行しますよ!”なんて意気込んでいる。
雨でも決行とか・・・やる気がみなぎってるな。
とにかく、約束をした以上はしっかり守らないといけないな。
服装とか普通でいいんだよな?
まさか、鉄道員みたいな恰好をしてくるとかじゃ・・・。
そんなわけないか。
それから仕事へ戻って、次々に片付けて行く。
そして土曜日の朝10時。
俺たちは、渋谷に集合することになった。
ちなみに、渋谷も東京メトロがつながっているから待ち合わせ場所になった。
それにしても、朝から東京メトロの旅とかきつくないか?
別に朝が弱いわけじゃないけど、これじゃあ通勤と変わらないじゃないか・・・。
「おっはようございまーす!」
「お前、本当元気だよな~」
「アメックスさん、前髪はねてますよ!!」
「そんな驚くことないだろ!」
いきなり大声で言うものだから、何かと思った。
確かに前髪がはねているのは恥ずかしいが、そんな大したことではない。
大げさに言うものだから、それを聞いて見ていた周囲の人達が笑っている。
全く、Tokyo Metro To Me CARD Primeは変なところ大げさなんだよな。
俺は慣れてるからいいけど、これが初対面だったらびっくりされて大変だぞ。
そんな事を考えていると、Tokyo Metro To Me CARD Primeがすでに切符売り場でsuicaをチャージしていた。
本当、しっかりしているというかちゃっかりしているというか。
動きが素早いんだよな。
「では、早速行きますか!」
「おう、今日は巡り巡って行けるところまで制覇するぞ~!」
「アメックスさん、ほら早く早く!」
そう言って、俺の腕をつかんで走り出すTokyo Metro To Me CARD Prime。
仕事中は真面目なのに、こういう時だけ子供みたいにはしゃぐんだよな。
可愛らしくていいと思うが、付き添う方はきっと振り回されることになるだろうな。
Tokyo Metro To Me CARD Primeと付き合う奴は大変だな。
そのまま走っていき、早速電車へと乗り込んで窓の外を二人して覗く。
今日は天気がいいから、外の景色がきれいに見える。
青く透き通った青空、白い雲。
何だか穏やかな気持ちになってくるというか、眠たくなってくる。
一駅がそんなに長くないから、あっという間に進んでいく。
「あれ、アメックス先輩とTokyo Metro To Me CARD Prime先輩じゃないですか!
お二人してデートか何かですか?」
現れたのは、スヌーピー一般カードだった。
こんなところで会うなんて思ってなかったから、びっくりした。
俺たちは何をしているのか告げると、スヌーピー一般カードが驚いた。
そりゃあ、無理もないよな。
東京メトロの旅をしてると言われても、何のことなのか理解するのが難しい。
俺は分かりやすく東京メトロについて話した。
事情を話すと、スヌーピー一般カードも一緒についてくることになった。
「それなら、私も参加させて下さい!
電車なら私も好きなんですよ~」
「おう、もうこうなったら道連れだ!」
「道連れって言い方、気に食わないんですけどぉ!」
Tokyo Metro To Me CARD Primeは頬を膨らませながら言う。
俺としてはすごく助かった。
さすがに、一日付き合えそうにないからスヌーピー一般カードが来てくれてよかった。
俺たちは3人で東京メトロの旅を始めたが、もう何度乗り換えをしたことか。
乗りかえをして思ったが、電車は本当に正しく乗ればすごく便利だ。
車で行くと道路次第で到着時間が大幅に変わるが、電車は渋滞がないからスムーズに目的地までたどり着くことが出来る。
そう考えると、電車ってやっぱりすごいなと思う。
「ここが水天宮前だよ!」
「わぁ、じゃあ人形町とか近いんですね!」
「水天宮前と言うと、駄菓子バーがあるよな。
また久々に行きたくなってきたな~」
「駄菓子バー?!」
「なんだ、知らないのか。
駄菓子食べ放題で、メニューも給食メニューなんだぞ」
Tokyo Metro To Me CARD Primeたちは知らなかったらしく、目をキラキラさせていた。
俺は何度か行ったことがあるから、どんな感じなのか知っている。
行ったことが無いと、どんな雰囲気なのか分からないから気になるだろうな。
何と言うか、温かみのある店だから女性にも人気だと思う。
俺が話すと、二人はとても行きたそうにしていた。
今度、みんなの予定が合ったら一緒に行こうと約束をした。
3人だけじゃなくて、もっと他の連中も誘っていった方が楽しくていいと思う。
「そう言えば、メトロの缶詰っていうものがあるんですけど。
アメックスさん達、知ってました?」
「えっ、メトロの缶詰ってなんだ?」
「メトロのグッズが通販で買えるんですよ!
巾着袋とかハンカチとか、色々売っているからぜひ見てみて!
じゃーん、私も東西線の巾着袋持ってマース!」
「「さっすが!!」」
俺とスヌーピー一般カードは声をそろえて、同じことを言った。
Tokyo Metro To Me CARD Primeは、見せびらかすように自慢してきたが不思議とうらやましいと思わなかったことは内緒だ。
俺は小田急派だから、他の電車にはあまり興味がない。
ただ、スヌーピー一般カードは素直に驚いて感動している様子だった。
ただの電車好きとは思っていなかったが、まさかグッズを集めるほどのファンだったとは。
家に帰ったら、もっとたくさんのグッズが置かれているのかもしれない。
「あー、アメックスさん、今興味ねーとか思ったでしょ!
これだからアメックスさんは会社で“ブラック”って言われているんですよ!」
「おい待て、何だ“ブラック”って!」
「私も聞いたことがありますよ!
独立独歩だから、それが冷たいという印象に繋がっているんだとか。
ブラックとかカッコイイじゃないですか!」
「どこがだよ!!
何だよ~、みんな俺の知らないところで変なニックネームつけやがって!」
ブラックってなんだよ、ブラックって!
確かに冷たいかもしれないが、最近は意識してるから冷たくないと思う。
俺が考えていると、Tokyo Metro To Me CARD Prime達が納得納得とか言いながら笑っていた。
くっそー、俺は納得してないぞ・・・!!