俺は最近、ショッピングにこだわっている。
いや、こだわっているというよりも、ストレス解消がてらに買っているのが多いかもしれない。
もともとショッピングは興味がなくて、最近になってから興味を持ち始めた。
イオンモールとか西友とか色々な場所を見学も兼ねて見ている。
最近俺がハマっているのは、楽天市場だ。
ネットショッピングにハマるようになってはや一カ月。
ようやく注文の仕方にも慣れてきたところだ。
何を買うのかと言うと、日用品や雑貨、洋服など。
さすがに靴は試着できないから注文しないが、結構楽しいと思っている。
俺は昼休み中に、会社のパソコンを使って通販サイトを見ていた。
昼休みだから別に何も問題はないだろう。
「あれ、アメックス先輩!
それって楽天市場じゃないっすか!」
「おう、お前も注文するのか?」
「ええ、俺はしょっちゅう注文してますよ!
クレジットカード持ってて、ポイントが付くから得っすよ」
やってきたのは、VIASOカードだった。
NICOSから出ている人気のクレジットカードとなっていて、年会費は永年無料となっている。
VIASOカードのオンラインモールを経由して買い物をするとポイントがアップされる。
貯めたポイントが自動的にキャッシュバックされるから、ポイントの取りこぼしもない。
VIASOカードは、明るくて人懐っこく、若手社員で期待のルーキーと言われている。
若手の中でも一生懸命に頑張っていて、注意力にも優れているんだ。
若いわりに意外としっかりしているから、頼っている者も多い。
VIASOカードは、よくネットショッピングをしているみたいで、社内でも結構有名な話になっている。
楽天カードも、楽天でしかネットショッピングをしないと有名だが。
だが、二人が話しているところは見たことが無いような気がするな。
「VIASOカードは、何か注文したのか?」
「ええ、しましたよ!
ぐるぐる魚釣りランド!!」
「またずいぶんと懐かしいおもちゃ買ったもんだなー!
だけど、あれ面白いよな」
「そうなんすよ、めっちゃ楽しいっすよ~!
デカいのないんすかね?」
言われてみれば、あの魚釣りゲームのおもちゃってデカいの見たことないな。
探したら出てくるんだろうか・・・気になってきた。
子供の頃、よく家族や友達として遊んだ記憶がある。
楽しかったな・・・今でも遊びたくなってきたくらいだ。
魚を磁石のついた小さな釣竿で釣り上げるっていう単純なおもちゃ。
それでも楽しかったことを覚えている。
そうか・・・あのおもちゃ、まだ売っていたのか。
久々に遊んでみたいな。
「アメックス先輩、魚釣りゲームで勝負しませんか?
俺、絶対負けない自信があるんすよ!」
「おっ、この俺に勝負を挑むとはいい度胸じゃないか!
んじゃ、今度の休みに勝負するか?」
「いいっすよ!
うちに魚釣りゲームのおもちゃ14個あるんで勝負!」
「中途半端だな、おい!」
14個って!
せめて15だろ、15!
どうしてそんなに持っているのか分からない。
大きいのが無いから、個数を増やしたのかもしれない。
それにしても、中途半端な数だな・・・。
10個にしておけばよかったのに、どうして14なんて微妙な数を・・・。
でも、勝負は勝負だから負けるわけにはいかない!
こう見えて俺は結構負けず嫌いだからな。
「負けた方が女装をしてコンビニに行く、と言うのはどうっすか?」
「げっ!」
「なんですか~、アメックス先輩?
もしかして、怖いんすか?」
「ち、ちっげーよ!
勝てばいいんだろ、勝てば!」
そう、勝てばいいだけなんだから不安がる事なんかない。
ぜってーVIASOカードには負けない。
何が何でも勝ってやるからなっ!!
負けたら女装と言う屈辱的な罰ゲームが待っている。
・・・・よし、ぜってー勝つぞ!
周囲が聞いていたのか、けらけら笑っている。
ヤバいぞ・・・負けたら連中にもばれることになるぞ・・・。
やがて、その噂は社内の一部に広まって、決戦の日が迫るまでずっと言われ続けた。
VIASOカードよりも俺の方が女装に向いているんじゃないかって。
冗談じゃねーし!
女装が似合うからって、なんの得があるのか分からない。
とにかく勝てるように、少し練習をした方がいいと思うんだよな。
「おし、魚釣りゲーム持ってる奴探すしかない!」
就業時間を迎えて俺は、早速魚釣りゲームを持っている人物たちを集めた。
おもちゃだけ貸してくれればよかったものの、みんな協力するとか言って残った。
それもとあるおしゃれな居酒屋の一角で。
こんなおしゃれな居酒屋で一体何をしているんだろうか、俺たちは。
早速ゲームをスタートして練習を始めて行く。
しかし、久々にするものだからなかなかうまくいかない。
子供の頃はもっとうまくできたような気がするんだけどな・・・。
あの頃は手先が器用だったからだろうか?
「アメックス、そのままじゃVIASOカードに負けちゃうぞ~!」
「まぁ、俺たちとしてはお前の女装を期待しているけどな!
絶対アメックス女装似合うって!」
「嬉しくねーよ!!」
「怒るなって、その時はバッチリ写真撮ってやっから!」
「要らねーよ!!」
女装が似合うって言われても嬉しくないし、写真も要らねーし!!
こいつら、俺を応援する気あるのか?
全く協力しようと言う姿勢が見えない。
むしろ、俺が罰ゲームを受ける事を望んでいるようにしか見えない。
ったく・・・俺の気も知らないで。
このままじゃ、マジでマズいぞ・・・!
もっと練習しないと、マジで女装することになる。
・・・・考えただけで恐ろしい。
「お前ら、真剣に協力するつもりあるのかよ!」
「ないっ!!」
「おいっ!!」
誰も協力する気ないのかよ!!
くっそー!
何が何でも勝ってVIASOカードに罰ゲームをさせてやる!
そして日曜日になり、俺たちはVIASOカードの自宅へと向かった。
いよいよ決戦の日が来てしまった。
もう逃げられないな・・・いや、今逃げるって考えたか、俺?!
罰ゲームがえげつなくて、とうとう逃げ出すことまで考えてしまっているのか・・・。
逃げたら馬鹿にされてしまう。
「アメックス先輩、わが家へようこそ!
逃げ出すかと思ってたっすよ」
「だ、誰が逃げ出すか、このやろう!
ぜってー負かせてやるからな!!」
「俺、負けませんよ?」
「俺だって70匹捕まえてやるからな!!」
「そんなにいないっすよ!!
アメックス先輩って、結構抜けてるんすよね」
なんだ、今の言い方・・・軽く馬鹿にされたような気分がしたんだが・・・。
結構抜けてるって・・・俺そんなふうに見られてたのか?
その間にも、周囲が魚釣りゲームをセットしていく。
魚はじっとせず、台の中がぐるぐる回ってて魚の口もパクパク開いたり閉じたりしている。
14台って結構多いな・・・だけど、俺も練習したから大丈夫だ、きっと。
準備が終わり、俺たちは小さな釣竿を持った。
目の前の台の中で、魚たちが口を開けながらくるくる回っている。
「じゃあ、始めるぞ~!
よーい・・・ドンッ!!」
周囲の合図によって、俺とVIASOカードが魚を釣り上げ始めた。
たくさんいる魚を丁寧にかつ慎重に釣りあげていく。
思っていたよりも、順調に魚を釣っていくことが出来る。
今の所、俺もVIASOカードも順調でいい感じになっている。
しかし、俺よりもVIASOカードの方が釣りあげていくスピードが早い。
このままじゃ本当にまずい・・・どうにかしないとな!
「あっ、アメックス先輩ずるいっすよ!
それ俺が釣ろうとしてたのに!!」
「先に目を付けたのは、俺の方なんだよ!
VIASOカードこそ、さっき俺が釣ろうとしてた魚釣ったじゃねーか!」
「それは俺が先に目を付けてたから!」
「じゃあ、俺も全く同じ理由だっ!」
そう言いながら、互いに魚を釣っていく。
大体互角くらいになって、全ての魚が居なくなり数を確認していく。
周囲が確認して、話し合っている。
もしかしたら、俺の方が少ないのか?
俺とVIASOカードが黙っていると、周囲が結果発表をした。
「今回勝ったのは・・・アメックス!!」
「ぃよっしゃー!!
練習した甲斐があったぜ!
VIASOカード、約束だから罰ゲーム守れよ?」
「そんな~・・・」
すると、女装グッズを手にしてVIASOカードが部屋を去った。
ふぅ、危なかった!
周囲からは大人げないとか言われたが、VIASOカードだってもう子供じゃないんだ。
本気でやらなきゃ失礼だろ。
手加減されたって嬉しくないだろうし。
その時、VIASOカードが入ってきて本物の女子みたいになっていた。
メイクをしたら女の子に見えるかも。
「ぅわぁっ!!」
いきなり身体を拘束されて、そのまま服を脱がされていく。
おいおい、ちょっと待て!!
俺はこの勝負に勝ったんだぞ?
俺がいくら抵抗したって、周囲が俺のことも女装させていく。
おいおい、マジで勘弁してくれよ・・・!
されるがままでいると、あっという間に俺まで女装させられてしまった。
VIASOカードが驚きながら、俺を見ている。
「はぁ・・・仕方ない、一緒にコンビニ行ってやるよ」
「アメックス先輩・・・思った通り優しいっすね!!」
「なんだ、思ってた通りって!
お前どんだけ俺の事、いい人だと思ってんだよ!」
「あはは!」
結局、俺はVIASOカードと一緒に女装してコンビニへと行かされた。
周囲の眼や店員の眼差しが少々痛かったが、これもいい思い出・・・じゃねーよ!!
ただただ恥ずかしいだけだっつーの・・・。
せめてもの救いは、VIASOカードが一緒だったことかもしれない。
だけど、VIASOカードが楽しそうにしていたし、魚釣りゲームも楽しめたからいいか・・・。
本当は納得したくないが、もう仕方ないからな。
最後に写真を撮られてしまったことだけが、悔しい・・・。