何だか最近になってから、ある人物の存在が目立ってきている。
別に嫌な意味ではないし、みんなのムードメーカーでいいと思う。
ただ、一つ気になるのは若い連中から人気があるという事。
やはり生活していく中で、色々な人物と関わっていくけれど、この人物だけは29歳以下の若い社員たちとばかり仲良くしているようにみえる。
「アメックス、今晩飲みに行かないか?」
「お、珍しいじゃないか、ジャックスカードアクルクスが誘ってくれるなんて」
「よしっ、決定な!」
そう言って、ジャックスカードアクルクスは行ってしまった。
全く、俺はまだ行くなんて言ってないぞ?
まぁ、行くけど!
奴はジャックスカードアクルクス。
このカードは29歳以下の学生限定カードとなっていて、ポイント還元率は低いけど利用額と入会年数に応じてポイントが増えるんだ。
貯めたポイントをキャッシュバックやギフトカードに交換したい学生にオススメ。
「あ、忘れてた!
アメックス、差しで飲みに行くぞ!」
「おうよ!」
え、誰か誘わないなんて珍しいな・・・。
いつもは誰か他の奴を誘って飲みに行くんだけど、何かあるんだろうか。
差しで飲みに行くなんてめったになかったから、何だか気になってしまう。
俺はそんなことを考えながら、仕事を進めていく。
ジャックスカードアクルクスは、若い奴としか絡まないから最初はどんな奴なのか分からなくて、接することを避けていた。
どんな奴なのか分からないと、やっぱりなかなか話しかけられないから。
誰だって、第一印象を一度抱いてしまえば変えることは難しいからな。
俺だって、最初は周囲から避けられていたし。
今思えば、だいぶみんなと打ち解けることが出来たと思う。
仕事をしていると、遠くでジャックスカードアクルクスが困っている若手社員のフォローをしている姿が見えた。
あいつはいい奴なんだよな、面倒見が良くて。
周囲から慕われている理由が良く分かる。
「ちょっとしたミスだから大丈夫だ。
ただ運が悪かっただけというか、まぁ、気にするなって」
「ジャックスカードアクルクス先輩、申し訳ございません・・・」
「そんなに何回も謝るなって!
この失敗を次に活かせればいいんだよ」
うん、あいつらしい励まし方だ。
責めるという事はせず、前向きになれるような言葉をかけてやる。
これが上司としてのやり方だと俺は思う。
失敗したことを責めるだけではなくて、失敗してしまったけどこんなところは頑張ったなって褒めてやることが大事だと思うんだ。
責められてばかりじゃ、誰だって頑張ろうとは思わないしな。
褒めてやれることは褒めて、直すべきところは直していく。
ただ頭ごなしに怒ったって、それは相手の心には響かない。
きちんと飴と鞭は使った方がいいと思うんだよな。
「アメックス、この書類なんだけどさ!」
「おう、どうした?
何か困ったことでもあるのか?」
「ここって、どんなことを書けばいいんだろう?」
「ここはこの方がいいんじゃないか?」
同僚から質問されて、分かりやすく丁寧に教えた。
仕事は一人で出来るものじゃないから、チームワークが必要になってくるんじゃないか?
俺は同僚と一緒に書類の不備などを直していく。
一人で行なうよりも少しでも多い方が心強い。
仕事を進めていき、気が付けばあっという間に就業時間を迎えることになった。
何だか仕事をしている時間が早く感じる。
それだけ、仕事に集中しているっていう事なんだろうか。
すると、ジャックスカードアクルクスがやってきた。
「よし、行こうぜ!
アメックスをいい店に連れてってやるよ!」
「おー、いいな!」
俺はジャックスカードアクルクスに誘われるがまま、後をついていく。
電車に少しだけ乗って移動をして、夜の繁華街を歩いていく。
それにしても、ずいぶん人気のない道を歩いていくんだな・・・。
こんなところに店なんかあるんだろうか・・・・。
ついていくと、一件のある店が見えてきた。
居酒屋と言うか、おしゃれなバーといった感じ。
こんなところにこんな店があったなんて知らなかった。
この通りなら俺も何度か通っているはずなんだが・・・。
中へ入ると、ジャズが流れていて良い雰囲気を醸し出していて落ち着く空間となっていた。
二人でカウンター席に座り、酒を注文していく。
ジャックスカードアクルクスは、酒があまり飲めないんだよな。
飲むことは好きなんだけど、弱いからあまり飲めないと話していた。
それでも、こうして誘ってくれて嬉しい。
「なぁ、アメックス。
後輩の失敗ってどうフォローすればいいんだろうな・・・」
「お前らしくないじゃないか。
どうした、後輩の面倒見がいいのに何を迷ってる?」
ジャックスカードアクルクスは元気がないように見えた。
俺もさっき見かけたけど、何も問題はないと思う。
もしかして、上司から何か言われたのか?
ジャックスカードアクルクスが元気ないなんて、珍しいことだ。
俺が問いかけると、黙ったままテーブルの上で両手を組んで乗せた。
本当、どうしちゃったんだ。
それから、ドリンクが運ばれてきた。
「上司から、お前は甘やかし過ぎるって注意されたんだ。
今のままじゃダメになるぞってさ」
あの様子を見ていたのは、俺だけじゃなかったんだ。
今のままじゃダメになるぞって、そんなこと分からないだろ。
上司の中には、文句ばかり言っている奴もいる。
どうしてそんなやり方で上司になれたんだか、俺からしたらさっぱりだ。
むしろ、そんなやり方だから上に上がれたのかもしれないな。
「俺はさ、ただ頭ごなしに叱っても意味がないと思うんだ・・・。
誰だって叱られるばかりじゃ嫌になるだろう?」
「それは俺も賛成だし、別にお前が間違っているとは思わない。
頭ごなしに叱るだけじゃ意味がないし、成長だってしないに決まってる」
「そう、だよな?」
「ああ、失敗した部分は反省させつつ頑張りも認めてやらなきゃ意味ない。
叱る事なんか誰にでも出来るんだ、叱ってもここはよく頑張ったなって言われた方が次につながると思う」
俺がそうはっきり言うと、ジャックスカードアクルクスが笑った。
満面の笑みではないが、何だか少し気が晴れたような笑み。
上司のいう事なんか、適当にしたがって受け流せばいい。
大事なことだけをしっかり受け入れて、他の事は自分で納得したら受け入れればいい。
何もかも押し付けられて、ルール化されてはたまらない。
自分が納得して正しいと思えることを、出来るような人間になりたいと俺は思う。
「俺はジャックスカードアクルクスの叱り方、好きだけどな。
責めるだけじゃなくて、褒めてるからトゲトゲしてなくていい」
「ありがとうな、アメックス」
「なんだよ、どうってことないだろ!」
「なんかお前に聞いてほしかったんだよな。
本当にありがとうな」
面と向かって言われると、なんかこそばゆい。
嬉しいんだけど、恥ずかしいような照れくさいような。
俺は笑いながら、グラスを口へ運んだ。
グラスには水滴がついていて、あれから時間が経っていることを知った。
もしかして、上司に言われる前からジャックスカードアクルクスは自分のしかり方について気にしていたのかもしれない。
それで、同僚である俺に相談を持ち掛けてきたのかも。
「俺はいつだってジャックスカードアクルクスの味方だ。
いや、きっと俺だけじゃないぞ。
だから、何かあったらいつでも相談してくれよな」
「アメックス・・・」
ジャックスカードアクルクスは、周囲から慕われているし仕事も出来る。
だから、きっと味方になってくれるのは俺だけじゃないと思う。
心細いと思っているかもしれないけど、実際はそんな事は無いんだ。
俺たちはそれから色々な話をして、盛り上がった。
この際だから、全て愚痴を吐き出して明日からまた働けるように。
明日から、また頑張れるように。
嫌なことはいくつだってあるし、この先だってあると思う。
でも、一緒に立ち向かっている仲間がいるから頑張れる。
「ジャックスカードアクルクスって、姉弟多かったよな?」
「ああ、結構いるけどみんな仲良くやっているよ。
アメックスも姉弟いたよな?」
「ああ、いるけど最近会ってないなー」
ジャックスカードアクルクスも姉弟が多い。
年下の扱いに慣れているのは、そのせいもあるのかもしれないな。
俺は面倒見がいいわけじゃないから、正直そのスキルがうらやましい。
ただそのスキルを持っているだけじゃ意味ないから、やっぱり無駄かな?
ジャックスカードアクルクスは面倒見がいいけれど、他の兄弟も似ているようなものなんだろうか?
「そういや、アメックス最初から上司にたてついてるよな?
クビにならないように、気を付けた方がいいぞ~」
「心配すんなって、返り討ちにしてやるよ。
納得できないことに無理矢理従うくらいなら、クビになった方がマシさ」
「お前らしいな」
そう言って、ジャックスカードアクルクスが笑うから、俺も笑った。
自分が納得できないことなんて、したくない。
間違ったことをしているみたいで、嫌なんだよな、そういうのはさ。
二人して、後輩の事について話が止まらない。
ジャックスカードアクルクスは、真面目で頼もしくて本当に尊敬する。
憧れている奴もきっと多いんじゃないかと思う。
同僚である俺も、ジャックスカードアクルクスに救われることがある。
俺もいつか誰かを助けてやれるような存在になりたいな。