色々な奴を紹介してきたが、実はまだ変わった奴が多く揃っている。
個性的な奴が多いから、毎日仕事をしていて飽きない。
俺は仕事を進めながら、時間を確認していた。
今日はこれから友人と会う約束をしているから、残業をしないよう時間配分をしている。
せっかく会えるのに、残業なんかしたら会えなくなるからな。
時間を作ってくれたんだから、俺も頑張って時間を作らなければ!
そんな俺を不思議に思ったのか、同僚や後輩から声をかけられた。
「アメックス、そんなにきっちりしてどうした?」
「アメックス先輩、もしかしてデートですか?」
「デートなんてそんな洒落たもんじゃねーよ!
今日は古い友達と久々に会う約束をしてるんだよ」
「だよな~、アメックスに彼女とか考えらんないよな!」
なんだ、その言いぐさは!
まるで俺には彼女が全く出来なくて当然と言わんばかりの言い方だな!
悪気はないんだろうが、なんかとげのある言い方だ。
まぁ、笑って済ませられるからまだマシかもしれない。
茶化されながらも俺は手を動かしているから、さすがの上司たちもおー!となっていた。
いや、上司でその反応はまずいだろ!
別に注意してほしいわけではないけど、感心しちゃうのもマズい。
就業時間を迎えて、俺は仕事を完璧に終わらせることが出来た。
お疲れ様です、そう言って退社して約束の場所へと向かった。
待ち合わせ場所は、とある居酒屋になっている。
急いでいくと、すでにもう友達が座席に座ってお冷を飲んでいた。
「ごめん、待ったか?」
「いいや、さっき来たばかりだから大丈夫だよ。
それよりアメックス、ちゃんとsuica買ったか?」
「会っていきなりsuicaの話かよ!」
彼はソラチカカード。
年会費が初年度無料になっていて、メトロ乗車でマイルが貯まるようになっている。
そのマイルはANAマイルに交換することが出来るようになっている。
電車や飛行機をよく利用する人には、お得なクレジットカードなんだ。
ソラチカカードは、電車や飛行機が好きで買い物も現金ではなくて、電子マネーで済ませてしまうんだ。
俺はなんとなく電子マネーが怖くて使えないが、ソラチカカードはお構いなし。
「そりゃあ、もう電車に乗って欲しいからね!
それで、suica買った?」
「・・・まだ」
「まだ?!」
久々に会ったのに、suicaの話から始まるとか・・・ないだろ!
俺はちゃんとした定期を買っているから、持っていない。
遊びに行くときもちゃんと切符を買っているから。
確かにsuicaのある方が便利かもしれないが、買ったら負けな気がする。
今では、自動販売機やコンビニでも使えるようになってきている。
それでも、なんていうか魅力を感じないんだよな・・・。
便利だけど、そこまで求めていないというかさ。
だけど、ソラチカカードが力説しているから聞くしかない。
ソラチカカードは変わった奴で、絶対に車で移動しないんだよな。
電車と飛行機にしか乗らないから、旅行へ行くときも全て交通機関が電車か飛行機。
旅行先でもタクシーなどを利用しないと言う徹底ぶり。
「アメックス、僕のお古だけどあげるよ。
これで、アメックスもsuicaデビューだね!」
「嫌なデビューだな・・・」
「suicaのキャラクターのホテルがあるんだけど一緒にいか・・」
「行かないぞ!」
「まだ最後まで言ってないじゃないかー!」
それじゃあ、まるで鉄道オタクみたいになってるじゃないか!
確かにあのキャラクターは可愛いと思うけど、泊まりたいほどじゃない。
それは、残念ながら別の奴と楽しんできてほしい。
俺の趣味ではないと言うか、何か違うような気がする。
まるで、子供のようにしょんぼりしているソラチカカード。
楽しそうに話していた人物とは思えないくらいに、しょんぼりして黙り込んでしまっている。
はぁ・・・俺が折れるしかないじゃないか・・・。
久々に会ったら、こんなにもどっぷり電車にハマっているとは。
「・・・・仕方ねーな!
んじゃ、今度一緒に行くか?」
「おっ、やったー!!」
「ったく、今度何かで借りを返してくれよな!」
「わかってるって!!」
本当に子供みたいで面白い。
しょんぼりしていたのに、満面の笑みを浮かべている。
一人で行けばいいのにって最初は思ったけど、一人だと心細いかもしれない。
予約がすごいらしくて、泊まることが出来るのはまだまだ先の事らしい。
もしかして、忘れた頃に泊まれますよ、という連絡が来たりして。
一緒に行く前にどんな部屋なのか、確認しておいた方がいいかもしれないな。
そう思っていたら、ソラチカカードが検索をして調べてくれた。
出てきた検索画像を見てみると、ベッドがすでにキャラクターの顔になっていた。
すごいな・・・こんな感じになっているのか。
全てがキャラクターに染まっていて、好きな人にはたまらない部屋になっていた、
「なぁ、これって何部屋あるんだ?」
「これは一部屋しかないんだ。
だから予約がたくさん入っちゃうみたいなんだよね」
「そうだったのか!
このホテルの下にキャラクターのケーキが売ってるらしいな。
先にケーキだけでも買っておくか?」
「ううん、そのケーキならもう前に何度か買ってる。
だけど、まだ部屋には泊まったことが無くてさ。
一人で泊まるのは何だかもったいなくてさ、二人まで泊まれるから」
そうだったのか・・・一人で泊まるのがもったいないって考えが無かった。
やっぱり、せっかくだから誰かと分かち合いたいという気持ちがあるのかもしれない。
あの部屋を一人で泊まっても、確かにつまらないかもしれないな。
それに、朝食にはあのキャラクターのパンケーキを出してくれるらしく、それもまた楽しみにしている人が多いのだとか。
また、持って帰ることのできるものも多いから、ファンには嬉しいかも。
「楽しみだな~」
「え、何もう予約したのか?」
「うん、さっきしたよ」
「まさかとは思うが、俺が行くっていう前に予約してたんじゃ・・・」
「ピンポーン!」
「ピンポーン!じゃねーし!!」
俺が軽く怒鳴るとソラチカカードが笑った。
俺の意見を聞く前に、もう予約をちゃっかりしているところがまた憎らしい。
だけど、憎めないんだよな・・・悪気が無いから。
まぁ、これも何かの縁だし泊まってもいいか・・・話しのネタにもなるし。
久々に会ったと言うのに、結局suicaの話しか出来なかった。
旅行へ行ってきたと話していたから、その話が聞きたかったのに。
楽しかったからいいか・・・。
そして、俺たちはあのホテルに泊まれる日を迎えた。
正直、ここまで来るのが長かったような気がする。
だけど、やっと泊まれるから少しワクワクしている。
あれから、俺もsuicaを使い始めて今度はそれを自販機で使ってみようかと考えている。
実は、電車以外ではまだ使えていないから、試してみようかと。
「アメックス、suica使った?」
「ああ、ちゃんと使ってるぞ!
これで文句はないだろ?」
「どうせ、電車でしか使ってないんでしょ!」
「うっ!!」
図星で何も言えないまま黙っていると、ソラチカカードが笑った。
だけど、全く使っていない訳じゃないから、ソラチカカードも嬉しそうだった。
そんなに好きなら、鉄道員になれば良かったのに。
そうしたら、毎日電車を見ることが出来るし乗ることだって出来る。
だけど、それとはまた違うんだろうな。
ホテルにチェックインして、部屋まで向かっていく。
部屋に辿り着くまではあっという間で、ソラチカカードがドアに手をかけた。
「開けるよ!」
「おう!」
ソラチカカードがドアを開けて、俺たちは部屋の中へ入った。
すると、そこはあのキャラクター尽くしになっていて、びっくりした。
写真で確認したはずだけど、実際に見てみて少し違って見えた。
やはり、自分の眼で見る方が断然いいと思った。
画像だとどうしても光の加減とかで、あまりよく分からないから。
ベッドやクッションが全て、あのキャラクターになっている。
ソラチカカードが、クッションに抱き付いたりしているから、俺は写真を撮った。
これも記念だよな?
「ソラチカカード、ほらこの写メ見てみろって!」
「どれどれ?
いつ撮ったんだよー!!」
「今だよ!」
「・・・ちょうだい!」
なんだよ、今の間は?
何か気に食わないことでもあったのか?
楽しんでいるソラチカカードの姿を何度も激写しては、メールに添付して送っていく。
なんか、俺ちょっとしたカメラマンみたいになってないか?
ま、いっか。
俺は自由気ままに室内の写真やソラチカカードの姿を、写真に収めて行く。
ただ、俺の写真が無いと寂しいと思ったから、フェイスクッションと一緒にツーショット写真を自撮りしてみたが、何だか気色悪く感じた。
女ならまだしも、男の俺がクッションと一緒に写っている、しかも自撮りとか・・・。
「痛い・・・痛過ぎる!!」
「何が?」
「俺の写真、なんか気持ち悪くないか?」
「おー、可愛く撮れてんじゃん!
その写真、ちょうだい」
可愛いってなんだよ!
男が可愛いって言われても、全然嬉しくねーよ!!
しかも、この写真ちょうだいって・・・いらないだろ!
キャラクターがうまく撮れているからくれって言うなら話は分かるが。
仕方なく、俺はその写真をソラチカカードに送ることにした。
これでいいのか、俺にはさっぱりわからないが・・・いいのかな?
しばらくして、やっと落ち着いて俺たちはゆったり過ごすことにした。
やはり慣れていないせいか落ち着かなかったけど、少し面白かった。
「アメックス、明日は絶対ルームサービスで朝食頼むよ!」
「ああ、わかってるって!」
忘れないうちに、連絡をしてその旨を伝える。
フロントの人がかしこまりましたと言ったから、安心した。
朝食のパンケーキ、今から楽しみだ。
それはソラチカカードも同じで、顔に出ていた。
持って帰れるものをちゃんとチェックして、明日に備えることにした。
翌日、俺たちはきちんと目を覚まして朝食を待った。
室内にルームサービスがやってきて、俺たちは運ばれてきたパンケーキを見て興奮した。
画像で見た通りのパンケーキだったから。
すかさず俺たちは写メを撮りまくってから、食べることにした。
味も美味しくて食いやすかった。
ソラチカカードは、満足しきっていたが俺は色々室内を見回していた。
もしかしたら、他に何か面白いものがあるかもしれないと思って。
「そろそろチチェックアウトの時間だね・・・。
何かあっという間で寂しいな~」
「確かに、あっという間だったよな。
また機会があれば泊まってみたいかもしれないな」
いつの日か、また機会があれば泊まってみたい。
その時は、またソラチカカードと一緒に。
帰ってから気が付いたけど、俺の画像フォルダの中に俺が寝ながらフェイスクッションに抱き付いている写メが入っていた。
ソラチカカードが撮ったんだろうが、恥ずかしくて今も隠している事は内緒だ。