最近では、色々な人物が入り混じっていてすごいことになってきている。
多くの人が会社に出入りしているから、見た事の無い人物の姿もある。
その中でも、せかせか働いている人物がいて、その人物と俺はよく比較されることが多い。
別にお互いを嫌い合っていると言うわけではないが、周囲から比較されることが多いんだ。
「よっ、アメックス!
一人で休憩でもしているのか?」
「ああ、少し休憩しているところだ」
やってきたのは、ダイナーズクラブカードだった。
年会費が15750円と少し高めだが、通常のクレジットカード機能に加えて世界中の空港ラウンジを無料で利用できるようになっている。
他社の追随を許さない圧倒的な特典・サービスが最大の魅力になっている。
アメックスと肩を並べるハイステータスブランドと言われている。
ダイナーズクラブカードは、紳士的で気前が良くて付き合いやすい。
プライドが高く少々傷つきやすいところがキズだが、いい奴だ。
「この間変わった居酒屋へ行ったんだが外れてなー。
アメックス、どこかいい居酒屋知らないか?」
「だったら、水槽のあるところなんてどうだ?
水族館にいるみたいで楽しいし、癒し効果もあってなかなかいいと思うぞ?」
店の名前は忘れてしまったが、そんな居酒屋があったことだけはよく覚えている。
予約しないと入ることが出来ないのが厄介だが、予約さえ入れてしまえば問題ない。
女性やカップルに人気だから、もしかしたら予約が出来ないなんて言う事もあるかもしれない。
そのことをダイナーズクラブカードに告げると、困った表情になった。
気になっている相手と一緒に行くのかと思ってアドバイスしたつもりだったんだが・・・。
もしかして、何かまずかったか?
「実は取引先との会食でな・・・。
どこか変わった店で会食をしたいと言われて・・・どうしたものか」
「そうか・・・予約がきちんととれる場所の方がいいのか」
予約がしっかりとれて、少し風変わりな店・・・なかなか難しいな。
変わった居酒屋ならいくらでもあるが、予約できるかどうかだよな・・・。
色々考えて、一ついい場所が浮かんだ。
上手く契約が取れるのかどうか自信はないが、童心に返ることが出来るような店なら距離を縮めることが出来るかもしれない。
俺はスマホを取り出して、早速その店を検索した。
「予約とれるか分からないが、この店ならどうだ?」
「個室居酒屋6年4組?」
「ここは学校がコンセプトになってるから、教室で飯が食えるんだよ。
メニューも学校給食だし、ちょっとしたテストもあって楽しいと思う。
童心に返れて懐かしいし、いいと思わないか?」
「確かに・・・いいな!
早速電話して確認してみるか」
ダイナーズクラブカードは、早速この居酒屋に連絡を入れた。
話を伺っていると、無事予約を取れたみたいで俺も安心した。
人気店はすぐに予約が埋まってしまうから心配だった。
ダイナーズクラブカードも安心したのか、やっと笑顔を見せたから安堵した。
きっと取引はうまくいくと思う。
普段から変わった居酒屋について調べているから、こんなとき役に立って嬉しい。
調べているだけで、なかなか実際に足を運ぶことが出来てないけどな・・・。
だけど、情報収集するだけでも楽しいんだよな。
「ありがとな、アメックス!」
「いいってことよ!
あ、今度焼き鳥でもおごってくれ」
「焼き鳥よりいいもん、食わせてやるよ!」
ダイナーズクラブカードが得意げな表情をして笑う。
でも、まだ油断できないんじゃないかと思う。
ただ店を決めただけで、契約まで取り次いだわけじゃないから、喜ぶにはまだ早い。
契約してもらえるまでは、気が抜けない。
それはきっと、ダイナーズクラブカードもわかっているだろう。
だけど、焼き鳥よりもいいものってなんだろうか?
ステーキとか?
休憩をいつまでもしているわけにはいかないから、俺たちは雑談を終わらせて自分の仕事へと戻った。
周囲は自分のペースで仕事を進めている。
特に忙しいと言うわけではないが、暇と言うわけでもない。
「アメックス、この書類確認頼むわ」
「了解」
同期が作成した会議用資料に目を通していく。
見たところ誤字脱字もないし、特に変な部分もない。
簡潔にまとめてあるし、無駄な個所もないから問題ないだろう。
グラフなどが入っていて堅苦しさもないから、目を通しやすいと思う。
説明文だらけじゃないし、これで大丈夫だと俺は思う。
「特に変な部分もないし、大丈夫だろう。
会議室に持ってってくれ」
「わかった、ありがとうな!」
同期がそのまま会議室へと資料を運んでいく。
最初は俺もうまく資料が作れなくて、何度も上司から注意された。
どこが悪いのか教えてもらえなかったし、ただ頭ごなしに怒鳴るものだから、一時期本当に悩んでしまった時期があった。
会社を辞めようかとも思ったが、どうして俺が辞めなきゃいけないんだろうって思った。
俺はあんな上司にならないようにしようと決めてから、俺は俺なりに頑張ってきた。
だから今の俺がいるんだ。
今後も頑張っていかなきゃな・・・!
それから、あっという間に月日が流れた。
仕事をしていると、月日の流れが早く感じていつの間にか季節を跨いでたりする。
こんなふうにして一年が過ぎて行くのかと思うと、俺の人生もあっという間かもしれない。
残業の為、俺は一人会社に残り片付けなきゃいけない仕事を片付けていた。
急ぎと言うわけでもないが、やれるときにやっておいた方がいいと思って。
後回しにすれば、きっとめんどくさいと思うに違いないから。
一人で会社に残っていると、時計が鳴り響いた。
もう22時か・・・早いな。
「あれ、アメックス、まだいたのか?」
「おっ、ダイナーズクラブカードじゃないか。
お前こそ、こんな時間にどうしたんだ?」
「ああ、ちょうど会食も終えて戻ってきたんだ」
ああ、そうか・・・今日が会食の日だったんだ。
すっかり忘れていた。
どうだったんだろうか・・・ちゃんとうまくいったのかな。
ダイナーズクラブカードの表情からは、それが読み取れなくてわからなかった。
だからと言って、俺から聞いていいものなのかどうか困った。
もしダメだったとしたら、傷をえぐることになってしまうから。
すると、ダイナーズクラブカードが口を開いた。
「取引の事だが・・・うまくいったぞ!!
二つ返事で快諾してくれた!」
「おーっ、良かったじゃないか!
実は今気になってたところだったんだよ!」
「あの店に連れてったら、すごく喜んで契約もうまく取れたんだ。
本当、アメックスのおかげだな!」
「俺はただ店を紹介しただけだ。
契約までこじつけたのは、ダイナーズクラブカード、お前の方だ。
本当にお疲れ様!」
俺が労うとダイナーズクラブカードは、素直に喜んでくれた。
本当に今回は疲れたんじゃないか?
相手は名の知れた人物だと言っていたから、いつもより気を遣っていたに違いない。
ダイナーズクラブカードは完璧主義者で、いつもパーフェクトを目指している。
今回は少しそのペースを乱されたみたいだが、うまくいってよかった。
二人して笑っていると、社内の電気が消されて真っ暗になってしまった。
そう言えば、今日は消灯時間が早いって言ってたっけ。
俺たちは帰り支度をして、そのまま近くの飲み屋へと向かった。
ダイナーズクラブカードがおごってくれると言ったから、好意に甘えることにした。
「生二つで!」
とりあえずビールを注文して、俺たちは上着を脱いだ。
そんなことをしているとビールが運ばれてきて、俺たちは乾杯した。
契約が取れたことは、明日上司に伝えるらしい。
いい報告が出来るから安心したとダイナーズクラブカードは言う。
その気持ちは俺にもよくわかる。
俺も初めて契約が取れた時、本当に嬉しかったから。
ダイナーズクラブカードは常に営業だから、毎日がこんな感じなんだろう。
時には契約の取れない時もあるけど、落胆せず反省してスッキリすることが大事だと思う。
「ダイナーズクラブカード、お疲れさん!
手ごわい相手だったらしいけど、どんな感じだったんだ?」
「ああ、気難しい人で話題提供が大変だったよ。
だけど、あの店に行ったから子供の頃の話で盛り上がった。
あの人、子供の頃は相当やんちゃ坊主だったらしい」
「そうかそうか、やっぱりあの店にしてよかったな。
たぶん、他の店だったらなかなか話題が切り出せなかっただろうからさ」
「そうそう、この店を教えてくれた人がお前だって話したらさ。
一度会ってみたいと言っていた」
そうか・・・一度会ってみたいと言ってたのか。
だが、気難しいタイプって俺苦手なんだよなぁ・・・。
会ってもどんなことを話せばいいのか分からないし、困ってしまう。
普段、全く人見知りもせず誰とでも親しくなれるダイナーズクラブカードが手ごわいと感じた相手だからな・・・。
俺は歯が立たないような気がする。
それから希少部位を使ったステーキが出されて、俺は美味しくいただいた。
焼き鳥よりも美味しいモノっていうから何かと思ったが、やっぱりステーキだったか。
すごくうまくて、俺たちはあっという間に平らげてしまった。
後日、うちの会社にある人物がやってきて会社内がざわついた。
誰かを探しているようで、みんながおびえていた。
一体何を起こしたんだ、とざわざわしている。
その時、俺はその人物と目が合った。
「君がアメックス君か?」
「は、はい、私がアメックスでございます」
「この間の店、とてもいい店だったよ。
今度一緒に飯でもどうかね?
君は色々な変わった店を知っているようだから、ぜひ」
「ありがとうございます!
私でよろしければ、ぜひご一緒させていただきます!」
「楽しみにしているよ」
そう言って、俺は深々と頭を下げて見送る。
そうか・・・あの人がダイナーズクラブカードと会食をした相手・・・。
確かに威圧感のある雰囲気を醸し出していて、少しおっかなく感じた。
ん・・・もしかして、俺気に入られたのか?
ダイナーズクラブカードと上司がやってきて、俺の肩を叩いた。
どうやら、あの人物はすごい権力者のようでその人物に気に入られた俺は特別なんだとか。
・・・何だかよく分からないが、変わった店調べておこう。