車って本当にカッコイイよな・・・。
結局、俺は免許が取れなかったけどいつ見ても車はカッコイイ。
乗ることが出来ないなら、みることしか選択肢が残されていない。
見るのはタダだし、傷つける事も無いから安心だよな。
雑誌で見るのも面白いし、実際に展示会へ足を運んでみるのも楽しい。
今は色々な種類の車があるから、自分の気に入ったものを探すことが出来ると思う。
シルバーとかブラックが人気色となっているが、どれも同じ色ではないからみんなよく比較をしながら決めているようだ。
「車ってカッコイイよな!」
そこへやってきたのは、STEERING PASS先輩だった。
年会費は953円となっているがVISAだと無料になるみたいだ。
自動車をよく利用する人におすすめだと言われていて、JCBなら万が一の故障や事故でも24時間無料でロードサービスを利用出来て安心。
そして、誕生日月はポイントが2倍になるようになっている嬉しいクレジットカード。
STEERING PASS先輩は、ちょっと意外な経歴を持っていて、この会社に来る前はレーシングドライバーだったんだ。
俺よりも年上で、実はSTEERING PASS先輩のレースを俺は何度か見に行ったことがある。
昔からカーレースとかF1が好きだったから、この会社にSTEERING PASS先輩が来た時は嬉しくてサインまで求めてしまった。
「ええ、すごいカッコイイですよね!
俺、この間免許の実技試験に落ちちゃって・・・」
「アメックス、バックする時格好は様になっていたのに、壁にぶつけたらしいな?
それなのに、筆記試験はほぼ満点とかもったいないなー」
「うっ・・・もうだめなんですよ、俺は」
「そんなにしょげるなって!
俺だってもともと運転できたわけじゃないぞ?」
運転のプロもきっと今まで練習して、今に至っているんだと思う。
それは俺にも理解できるが、俺には向上心が無いからあまりうまくならない気がする。
筆記試験は確かに良かったけど、実技がだめとか・・・もう無理だろー・・。
俺がしょんぼりしていると、STEERING PASS先輩が笑った。
今の俺が昔の自分と重なったみたいで、アドバイスを色々もらった。
だけど、もう一度教習所へ通う気力は無くて頭に入れておくだけにした。
「俺もさ、最初はうまくバックできなくて、いつもぶつけたりしていたよ。
周囲から馬鹿にされて、悔しくなった俺は何度も練習した。
どうでもいいやって思っていたら、突然出来るようになったんだよ」
「俺にも出来ますかね・・・?
何か慎重にやろうとすればするほど、うまくできないんですよね」
「そうなんだよなー、もう少し力を抜けば出来るぞ」
力を抜けば出来る、か・・・。
入れよう入れようと考えて神経質になっているから、ダメなのかもしれない。
もっと気楽にすれば出来るようになるかもしれない。
イメージトレーニングも大事だけど、実際にやった方がいいという事で、俺はSTEERING PASS先輩から教えてもらう事になった。
知り合いに連絡を入れて、傷つけてもいい車を用意してもらう事が出来たみたい。
確かに、きれいな車を失敗して傷つけるわけにはいかないもんな。
何だか今から緊張してきた。
「んじゃ、俺たちも見守りに行くわ!」
「そうそう、チェックしなきゃね!」
俺たちの話を聞いていた、さくらカード達が集まってきた。
俺が練習しているところを見学しに来ると言いだした。
正直、誰かに見られていると余計にやりにくくなってしまう。
さすがに来なくていい!と強く言えなくて、みんなも見に来ることになってしまった。
マジか・・・マジで来るのか・・・。
少し憂鬱になってきた・・・STEERING PASS先輩から教えてもらえることはすごく嬉しいことなのに。
はぁーあ・・・何だ、この板ばさみは。
そしていよいよ、練習する日になった。
俺は一応汚れてもいい服を着てきたが、みんなのテンションが異常すぎる。
大きな旗にデカい文字でアメックスファイトー!と書かれていた。
・・・・恥ずかしい!
それを見た、STEERING PASS先輩の関係者たちもニコニコしている。
まるで子供を見守るかのように。
「アメックス、少し肩慣らしをしてから始めようか。
少しこの車で走っておいで」
「わかりました」
そう言われて、俺は少し走ることにした。
普通に走行することは出来るけど、バックだけが出来ないんだよな・・・。
車のエンジンもちゃんと温めてから、みんなの元へ戻った。
俺の助手席にSTEERING PASS先輩が乗ってきた。
何か緊張してうまく運転できるのか、不安になってきた・・・。
だけど、出来る限り頑張って習得しなきゃいけないよな!
「じゃあ、ゆっくりでいいからバックしてみようか。
急がず自分のペースで構わないよ」
「はい」
俺は言われた通り、ゆっくりバックして駐車していくがやはりうまく入らない。
バックしたものの、白い駐車線からはみ出してしまっている。
だけど、実技試験の時よりもマシだった。
あの時は壁にぶつかって教官に怒られたからな・・・。
STEERING PASS先輩がアドバイスをくれる。
バックする際、車に映し出されたモニターをよく見て、と。
モニターを見ても、やっぱりうまくいかない。
何度もアドバイスの通りにやってもうまくいかない。
そうしている事で時間がだんだん経っていき、諦めかけていた。
どうして俺、バックだけ出来ないんだろう・・・。
「アメックス、そんなに落ち込むなって。
あ、それならドリフトして駐車するやつでもやってみるか?」
「あれカッコイイけど、難しいやつじゃないですか!!
俺に出来るわけないじゃないですか!」
「出来なくても、ドリフトしてみたくないか?」
「・・・してみたい!」
俺がそう言うと、STEERING PASS先輩が楽しそうに笑った。
実は、俺もあんなふうにドリフトをしてみたかった。
免許がないから出来ないし、公共の道路では決して出来ないことだ。
せっかくの機会だから、させてもらおうと思った。
俺は言われた通りにスピードを出して、そのまま駐車スペースを目指した。
STEERING PASS先輩がダメで元々だと言ってくれたから。
ケガをしても大丈夫なように、色々装備しているから問題ないと。
左右にはスクラップ車が停められていて、その真ん中だけ空いている状態だった。
俺は自分のタイミングで思い切りハンドルを切った。
―キィィィィッ!!
車がぐるっと回転して、バタンと車体を浮かせながら停まった。
何が起きたのか俺にもよく分からない。
よく見ると、目の前にはスクラップ車が停められていた。
ぶつかった形跡もなくて、後ろを振り返っても何も違和感はなかった。
俺が黙ってSTEERING PASS先輩を見ると、先輩は驚いていた。
そして、すぐに笑い始めた。
「まさか、ドリフト駐車がうまかったとはな!
アメックス、お前今度からドリフト駐車しろ」
「無理っすよ!!
すぐに違反になるし、免許もらえないじゃないですか!」
「じゃあ、まぐれかどうかもう一度試してみるか?」
「絶対まぐれに決まってるじゃないですか!」
そう言って、俺は車を駐車スペースから出してスタート地点へと戻った。
そして、もう一度同じことを繰り返してみる。
あんなのまぐれに決まってる。
初めてやったんだから得意も何もないんだ。
そう思いながらもう一度ドリフトを自分のタイミングでしてみた。
すると・・・再び綺麗に縦列駐車することが出来た。
うそ・・・だろ?
「ほら、アメックスがバックできないのは必要ないからなんだよ!
ドリフト駐車出来るとか、お前すごいじゃないか!」
「マジか、俺?!」
車から降りると、みんなが驚愕しながら俺の事を見ていた。
俺自身も信じられない。
STEERING PASS先輩の関係者も驚いていた。
一番驚いているのは、他の誰でもないこの俺だ。
すると、STEERING PASS先輩が別の車で走行してドリフト駐車を始めた。
―ガシャーンッ!!
すごい音がしてみてみると、フロントガラスが衝撃で割れてしまった。
・・・・STEERING PASS先輩、もしかしてドリフト駐車出来ないのか?
だとしたら、俺かなり嫌な奴じゃないか?
バックが出来ないくせにドリフト駐車は完璧に出来るとか・・・。
それから何度もSTEERING PASS先輩が、ドリフト駐車の練習をしている。
何だか申し訳ない気持ちに駆られて、俺は何も言えなかった。
「お前、やっちまったな・・・」
「ああ・・・俺、完全にやらかしたパターンだよな・・・」
集まっていたみんなに肩を叩かれた。
しくった・・・マジでしくった・・・。
結局、バックは出来なくてこっちのすごいやつだけ修得したとか・・・。
教習所でやったら即ハンコもらえないだろうな。
分かったのは、俺はいくら練習してもバックが出来ないという事と何故かドリフト駐車だけは出来るという事だ。
STEERING PASS先輩は笑っていたけど、なんとなく恐く感じたのはきっと俺だけじゃなかったと思う。