何だか今日も朝から疲れてしまった。
俺は自分のデスクでうなだれるようにして、突っ伏した。
疲れやすいわけではないが、今日の仕事量が多かったんだよな・・・。
ふぁー・・・何だか眠たくなってきたぞ・・・。
もう昼休みだから、少しくらい寝てもいいよな・・・?
俺は両目を閉じて、そのまま眠りへとゆっくり誘われていく。
目覚ましならスマホでセットしたから問題ない・・・少し眠ろう。
しばらくして、何だか騒がしい声が聞こえてきた。
一体何の騒ぎなんだろうか。
だけど、まだ眠たくて俺はそのまま眠ろうとした。
しかし、スマホの目覚ましが鳴って俺は突っ伏したままスマホの画面にタッチした。
アラームが静まり、俺は再び眠りにつき始めた・・・。
にぎやかだったはずなのに、急に静まり返って俺は不審に思った。
もしかして、昼休み終わったのか?
いや、早すぎるだろ・・・。
俺はそのまま体を起こして、あくびをした。
すると、目の前には頭に鋏が刺さったはんにゃの姿が・・・!
「うぉっ、マジかよッ!!
俺だけ見えるパターンかよ?!」
パニックになり、俺は机の引き出しを開けて数珠を取り出した。
まだ呪われるわけにはいかないからな・・・!
数珠を取り出してお経を唱えようとした時。
俺の額に強く何かが飛んできて、俺はその反動でしばらく額を押さえてうずくまった。
その瞬間、みんなの笑い声が聞こえてきた。
なんだ・・・?
皆にもこのはんにゃが見えているのか?
「もう、アメックス先輩、ビビりですねぇ!
僕ですよ、ぼーく!」
「あぁっ?」
よく聞くとその声は、楽天カードの声だった。
・・・何だよ~、脅かしやがって!
本気で呪われるかと思ったじゃないか!
周りは、まだ笑っている。
文句を言ってやろうかと思ったが、楽天カードがまだ頭に鋏の刺さったはんにゃの面を付けている。
「お前なぁ、その面はずせっての!!
怖ぇよ、その面は!」
「あはは!」
「あははって笑いごとじゃねーし!」
こいつは楽天カード。
楽天市場の買い物で使えるカードでいつも買い物を楽天でしかしないと決めている、少し変わった奴なんだ。
ポイントが沢山貯まり若年層を中心に圧倒的な支持を得ているんだ。
毎週土曜日は感謝デーでポイントもたくさん貯めることが出来る。
だけどそのためにはエントリー登録する必要があるから注意。
そして、まだ若くて、それでも活発で多くの趣味を持っているんだ。
ネット関係にすごく長けていて、周囲からの信頼も高く人気者。
色々な連中から好かれているが、若者からよく好かれているような気がするな。
初対面でもすぐ打ち解けられるし、楽天について詳しく知っているから、どんな質問にも答えてくれる。
楽天についてだったら、右に出る者が居ない。
「それで、また楽天で買ったのか?」
「その通り!
さすがはアメックス先輩、よくご存知ではないですか!」
「いや、俺以外も知ってるから!」
楽天カードがいつも楽天グループでしか物を購入しないことは、みんな知っている事だ。
別に俺が詳しく把握しているわけじゃない。
人懐っこくて、みんなから気に入られている存在。
何て言うか、アイドルみたいな・・・楽天カードの事を知らない奴は少ないと思う。
それにしても変な面買ってきやがって・・・一瞬マジでビビったじゃねーか・・・。
だけど、憎めない奴なんだよな。
「アメックス先輩、今夜100%chocolate cafeに行きましょう!」
「俺たちが帰るころには、店しまっちゃうだろ」
このカフェはすごく有名で、ラストオーダーは午後18時30分となっている。
本店は京橋にあるらしいが、ここからちょっとだけ時間がかかる。
そもそも就業時間が19時だから間に合わない。
楽天カードがしょんぼりしてしまっている。
楽天カードは、スイーツ強化月間という行事を独自で行なっている。
特に2~6月、8月と12月がスイーツ強化月間なんだとか。
この店には行けないが、原宿にパンケーキ屋があるらしいからそっちでもいいんじゃないかと思う。
パンケーキだって、立派なスイーツだもんな!
「それじゃあ、原宿のパンケーキでも食べに行くか?」
「え・・・アメックス先輩、パンケーキとか女子っぽい!
お店の中も女子がたくさんいるんですよ、きっと」
「な、なんだよ、せっかく人が良かれと思って提案してやったのに!
そんじゃあ、手羽先でも食べに行くか!」
「うーっ、パンケーキ・・・」
全く楽天カードは浮き沈みが激しく、小さな子供みたいだ。
スイーツ強化月間だと言うからパンケーキと言ったのに、女子っぽいとは何だ!
まぁ、本当は俺も甘いものが好きだという事は内緒だが。
言ったら馬鹿にされるし、からかわれるだけだからな。
楽天カードがずっとパンケーキ・・・と言ってしょんぼりしている。
・・・・はぁ、仕方ない奴め。
「んじゃ、パンケーキ食いに行くか!」
「行きます、絶対行きます!
アメックス先輩の女子力パワーについて行って、僕も女子っぽくなります!
全力で僕もパンケーキ食べて頑張りますッ」
「おいッ、女子っぽい言うな!
それに、なんだ女子力パワーって!」
楽天カードは興奮しながら言う。
さっきまであんなに落ち込んでいたというのに、現金な奴だな。
だけど、あまりにも嬉しそうにするものだから、やはり憎めない。
全力でパンケーキを食べるって、なんか咽そうだけど大丈夫なのか?
周囲が楽しそうに笑っている。
楽天カードは面白い奴だからな。
業務時間が終了して、俺と楽天カードは原宿へと向かった。
楽天カードは楽しみにしているのか、顔がにやけている。
そこはあえて何も言わず、そのまま電車に乗って向かっていく。
俺も甘いものを食べるのは久々だから、内心楽しみにしている。
原宿駅について、そんなに歩くことなくパンケーキの店に着いた。
偶然にも今日は客が少なくて、すぐに案内してもらえることになった。
店内はハワイのような雰囲気で、温かい気持ちになる。
パンケーキの他にも、フレンチトーストや今話題になっているアサイーボールなどもあってメニューは豊富だった。
「僕はパンケーキとパンケーキとパンケーキ・・・!」
「おいおい、落ち着け楽天カード!
食べたいパンケーキはせめて二つまでにしておけ!な!」
「・・・はーい」
楽天カードが興奮するのも無理はない。
だって全部うまそうだし、いや、絶対にうまい。
初めて来たら誰だって迷ってしまうに決まってるだろうからな。
メニューを見て、俺が気になったのはフレンチトーストだった。
パンケーキは前に食べたし、今回はフレンチトーストにするか!
写真を見てふわふわしているのは分かったし、美味しそうだ。
「俺はフレンチトーストにするわ」
「ふれんちとーすとっ!!」
「おい、カタカナ変換をしろ!」
俺がそう言うと、楽天カードが楽しそうに笑う。
まったく・・・。
それにしても、店内はやはり女性ばかりで少し居づらい・・・。
男性が全くと言っていいほど見当たらない。
いるとしてもカップルだし・・・いいのか、俺たちこんなところにいても。
それからパンケーキとフレンチトーストが運ばれてきた。
「いただきます!」
二人して口へと運び、互いに笑い合う。
思わず笑ってしまうほどの美味しさだったから。
楽天カードが俺のフレンチトーストを見ているから、少し分けてやることにした。
ホントうまそうに食うよな、楽天カードは。
口にクリームまでつけて、とても社会人には見えない。
「アメックス先輩、ごちそう様です!」
そう言われて、自分の皿を見るとフレンチトーストがなくなっていた。
あれ・・・俺まだ少ししか食べていないはずなんだけどな?
楽天カードがふぅと息を吐く。
まさか、こいつ俺の分まで完食しやがったな!!
俺だって美味しく食ってたっていうのに・・・!
「ふざけんなよ、楽天カード!!
俺の、俺のフレンチトースト全部食いやがって!」
「美味しかったから、つい・・・」
「おねーさん、フレンチトースト一つ!」
「僕もフレンチトースト一つ!」
「お前はもういいだろうが!
こいつのフレンチトースト、キャンセルで!!」
「うーっ!!」
全く油断も隙もあったもんじゃないな!
俺のフレンチトーストを勝手に完食しておきながら、まだ食うつもりなのか。
それほどうまいのはわかるが、今日はもうおしまい。
俺がフレンチトーストを食べているところを見て、楽天カードが目を輝かせている。
しかし、今度は分けてあげなかった。
お前はもうたくさん食べたんだから、おしまい!