今日もまた同じ日々が繰り返されている。
何も大きなことが起きずに平和に過ごせているわけだから、何も不便はない。
むしろ、平穏に過ごせていいくらいだ。
それにしてもわが社の女子社員は、本当に仲が良くてすごいと思う。
何て言うか、女子同士だと衝突したりするイメージだから。
それが無いから、やっぱりうまく付き合っているんだろうなって思う。
女子同士って、どうしてもいいイメージが無いんだよな・・・。
そう思っていると、何だか騒がしくなってきた。
「聞いて聞いて、今度大丸でスイーツフェスタやるのよ!
興味ある人は一緒に行かない?」
「私行きます!!」
「よし、俺も行ってみよっかな!」
おー、みんななんかやる気だな。
スイーツか・・・何だかちょっと気になるな・・・。
男女ともに参加しているみたいだから、俺も参加してみようかな?
だけどまた周囲から馬鹿にされないか心配だ。
結局、この間だって女装して写真撮らされたし・・・あれって絶対俺関係なかったよなー・・・。
まぁ、別に終わったことをいつまでも根に持つわけじゃないけど!
俺は目元に氷嚢を乗せながらうなだれた。
今は休憩時間だし、ちょっと目が疲れたから休ませないと。
冷えピタとかも必要かな。
そんなことを考えていると、氷嚢が持ち上げられた。
「もう、アメックス何してるのよ」
「いや、なんか目が疲れてさ」
「アメックス、今度の土曜日午前11時に大丸集合で。
遅刻厳禁だからね!」
「はっ?!」
何で俺が強制参加になってるんだよ!
どう考えたっておかしいだろうが。
いつ俺が参加するって言った?
・・・まぁ、行くけど!
彼女はDAIMARU CARD。
大手百貨店大丸・松坂屋でお得なクレジットカードとなっている。
年会費は初年度のみ無料で、翌年から支払うようになっているカード。
配偶者や学生でも入会することが出来るようになっているが、18歳未満は不可。
加盟店での利用は0.5%還元だが、大丸・松坂屋百貨店では5%還元となっている。
「俺も参加かよ!」
「あったりまえよ!」
DAIMARU CARDは明るくて、いつも元気でパワフル。
女性らしくて面倒見もいいけど、感情の起伏が激しいからそこがたまにキズ。
男性からも女性からも好かれているから、姉御的な感じかな。
俺たちなんかよりも、男らしくて頼もしい。
それにしても、強制参加かよ!
そもそもなんで俺が誘われたのか分からない。
俺がスイーツ好きだって言うのは、みんな知らないはずなんだけど。
誰かが話したっていう事なのか?
話してもいいけど、自分の知らないところで言われるのはいい気がしない。
嫌な訳ではないけれど、なんていうか・・・。
「アメックスがいないと始まらないじゃない!
スイーツ好きなんでしょ!」
「なんで知ってんだよ!」
「楽天カードから聞いたのよ!
いいじゃない、別にスイーツ男子なんて今は多いんだし」
やっぱり楽天カードが言ったのか。
一緒にパンケーキ食べに行ったしな、無理もないか。
もしかしたら、俺がスイーツ好きってコト、他の奴も知っているのか?
全く・・・参ったな・・・。
スイーツ男子が多いから大丈夫って言われても、何だか嬉しくないな。
とにかく、土曜日になったら大丸に集合しなきゃな。
嫌々そうに見えて、実は嫌じゃないんだよな。
内心は楽しみにしているんだよな。
仕事を進めながらも、女子たちはウキウキしているようにみえる。
確かに楽しそうだもんな・・・。
「おい、アメックスも行くんだろう?
土曜日のイベント!」
「ああ、行くことになった」
「俺も行くからよろしくな!」
「おう!」
何だ、思ったよりも結構参加するのか?
男が少なかったら浮くかと思ったが、そうでもなさそうだからよかった。
男が少なくて、女ばっかりだったらやっぱり気が引けるもんな。
スイーツのイベントって、どんなことするんだろうか。
やっぱり珍しいスイーツとか取り扱ってるのかな。
美味しいものが手に入るといいんだけど、見つかるかどうか心配だ。
それから土曜日になって、俺は大丸へと向かった。
そこにはすでにメンバーが集まっていて、その中心にはDAIMARU CARDがいた。
DAIMARU CARDが俺を見て、こっちこっち!と言いながら大きく手を振る。
相変わらず元気だなー!
休みの日でもパワフルでみんなを引っ張っている。
男らしいから彼氏が出来ないんじゃないか?
って大きなお世話か。
「アメックスも来たし、しゅっぱーつ!!」
「おーっ!!」
「張り切ってんなー」
「ほら、アメックスも!!」
「・・・おー!」
ってなんだ、このやりとり!
周囲が俺たちを見て笑っている。
恥ずかしい・・・こんな風に目立つのはなんていうか。
そのまま大丸の中へ入っていくと、客がたくさん来ていて混雑していた。
どうやら、テレビでも特集をしていたようで、女性が多く足を運んでいた。
だけど、中へ入って一件ずつ店を確認していくと、色々美味しそうなものがある。
美味しそうなものが多くて目移りしてしまう。
見た目がきれいなものから可愛らしいものまで揃っている。
「最近のスイーツってすごいな!」
「でしょ!
私が誘ってあげたんだから、感謝しなさいよね!」
「なんだ、その言い方っ」
「ふふっ、でも来て良かったでしょ?」
「ああ、そうだな!」
俺とDAIMARU CARDは互いに笑いあった。
最初は強制的だったからどうかと思ったが、楽しい。
たくさんのスイーツを目の前で見ることが出来て、すごく楽しいし買いそうになる。
だけど、ほしいものを全て買ってしまったら、財布がすごいことになる。
新しいスイーツも結構出てきているから、興味深い。
女子っぽいものが多いかと思いきや、男のスイーツなども増えてきているみたいだ。
その名の通り、見た目がすごい。
大きいと言うか食べ応えのあるものだから、男にとっては嬉しいかもしれない。
「アメックス、何か買って帰る?」
「ああ、俺はこのロールケーキを買って帰るけど。
DAIMARU CARDは何か買うのか?」
「あ・・・私は今食べられないからさ」
急にしょんぼりして、DAIMARU CARDは寂しそうに笑った。
なんだ、何か食べられない事情でもあるのか?
だけど、その理由を聞くのは失礼な気がして聞けなかった。
俺が黙り込んでいると、DAIMARU CARDが笑った。
・・・・・・?
「違う違う、病気とかじゃないのよ!
ただ、ちょっと虫歯になっちゃって」
「虫歯か・・・それはきついな。
だけど、良かったのか?
こんなところに来たら目の毒になるんじゃないか?」
「ううん、だってスイーツ好きだから。
やっぱりどうしても見たくなっちゃうんだよね。
食べられなくてもさ、好きだから、やっぱりね」
「そうか・・・だったら、日持ちするものを買っていけばいいんじゃないか?
今すぐ食べるものじゃなくて、いつでも食べられそうなものを買うとか」
確かにあまり日持ちはしないかもしれないが、このままだと寂しい。
俺だったら、何か少しでも食べたいと思ってしまう。
ケーキなどの生ものが多いから、買えるものは少ししかない。
だけど、チョコなら日持ちするから問題ないと思う。
俺はDAIMARU CARDと一緒に何か持って帰れるものがないか探してみることにした。
やはりDAIMARU CARDが食べられそうなものは少なくて、困ってしまった。
結局、俺たちは楽しめたけどDAIMARU CARDは見るだけで終わってしまった。
何だか可愛そうだったな・・・。
あいつ、大丈夫大丈夫なんて言ってたけど・・・内心は違ったと思う。
本当は何か食べたかったんじゃないのかな。
俺たちは解散して、それぞれ帰路についた。
それからしばらくして、DAIMARU CARDの虫歯が良くなってきたと聞いた。
だったら、もう甘いものが食べられるんじゃないかと思ったけど、せっかく治りかけてきているのに甘いものを食べるのがどうかと思った。
どうせなら、何か虫歯にならないものがいいけど、甘いものはそうもいかない。
そこで、俺は少し変わったチョコをネットで注文することにした。
女子がどんなものが好きなのかなんて、俺には分からない。
可愛いとか素敵とか、そう言った感覚も男女では異なるだろうし。
だけど、センスが悪いと思ったことは一度もない。
「DAIMARU CARD、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「これ、この間誘ってくれた礼だ。
今はまだ食えないかもしれないが、もらってくれ」
「何、食べ物なの?
開けてみてもいい?」
そう言われて俺はうなずいた。
別にここで開けてもらっても構わない。
DAIMARU CARDが、恐る恐る包み紙を開けて箱の中身を確認する。
中身を見たDAIMARU CARDは、驚きながらも嬉しそうな表情を見せた。
その表情を見て、俺も安心した。
喜んでもらえたことに対しても嬉しいし、思ったよりも元気だったから。
これは本当か分からないが、人間お腹がすくと寂しくなるらしい。
DAIMARU CARDの場合は、甘いものが食べられなくてしょんぼりしている様子だったから。
「わぁ、これってトランプチョコじゃない!!
どうしたの、これどこのお店?」
「確かそれは神戸フランツって店のチョコだよ。
いつもは在庫切れしてるみたいだが、偶然にも手に入れられたんだ」
「ありがとう、アメックス!
アメックスって噂通り、優しいのね」
「噂って?」
「ううん、知らないならいいの!
本当にありがとう!」
何だかよく分からないが、DAIMARU CARDが喜んでくれたならいいか。
あの時とは違って、本当に嬉しそうだ。
大丸に行った時は、子犬のような目をしていたから。
チョコって言っても、色々なチョコがあるんだな。
スイーツは食べる方専門だから、気が付かなかった。
そんな俺たちを見ていた周囲が、笑いながらやってきた。
「アメックスって優しいんだな!」
「私にも優しくしろー!」
「そうだ!そうだ!」
「うるさいぞっ!」
俺が怒りながら言うと、みんなが笑った。
大体、俺は周りからどんなふうに見られているんだ!
優しいって俺が?
それに、私にも優しくしろって何なんだ!
俺は誰にだって平等に接しているつもりなんだが。
もしかして、差別しているように見えているってことなのか?
もしそうだとすれば、問題だよな・・・。
「アメックス、これやるよ!」
「おう、サンキュー!」
もらったのは、小さなチョコだった。
よく子供たちが食べているような、小さな一口大のチョコ。
そのまま口へ入れると、シュワシュワし始めた。
・・・・っ?!
そして、口の中で今度はパチパチ言い始めて舌が痛くなった。
もしやこれは、チョコではなくてパチパチするお菓子なんじゃ・・・。
「おい、これチョコじゃねぇじゃねーかよ!!」
「それ渡してきたのDAIMARU CARDだぜ!」
「やりやがったな!!」
「おははっ!」
なんだ、おははって!!
普通は、あははだろうが!
もう、どこからツッコめばいいのか分からなくて、俺は脱力してしまった。
なんかもういいや、嫌がらせってわけでもないし。
皆楽しそうにしているし、このままでも。
遠くでDAIMARU CARDも笑っている。
くっそー、せっかくトランプチョコをやったのに!
だけど、実は自分の分のチョコも一緒に頼んだことは内緒だ。
バレたら皆に分けなきゃいけないからな。