最近充実した毎日を送っているけど、実は気になっていることがある。
それは、新しく出来たイオンモールについて。
イオンモールと言えば、大型ショッピングセンターと提携していることが多い。
実は一度もイオンモールを利用したことが無いから、一度行ってみたいと思っている。
イオンって広いけど、どんなものを扱っているんだろうか・・・。
それに、映画館もあるから利用できたらいいなと思っているところなんだよな。
「アメックス、どうしたボーっとして?」
「ああ、実はイオンモールについてちょっと考えててさ・・・」
話しかけてきたのは、イオンカードだった。
イオンカードは、イオングループの買い物が割引になったりとメリットが多い。
また、主婦層を中心に高い支持を得ているカードで、お客様感謝デーなどイオンシネマの割引もしてくれるお得なカードとなっている。
イオンカードは、女性から人気があって気配りも出来ると評判がいい。
話しやすいから色々な人達とよく話したり、飲みに行ったりしている。
「実は一度もイオンモールに行ったことなくてさ・・・」
「ええ、アメックス、イオン知らないの?!」
「いや、イオンは知ってる!
ただ、行ったことが無いだけだっ!」
「アメックス、庶民を甘く見てると痛い目に遭うぞ!
だめだ、イオンはすごいんだぞ~!」
「甘く見てねーよ!
むしろ、すげーと思ってるって!!」
俺が言い返すと、イオンカードが笑った。
別に甘く見てないし、本当にすごいと思ってるぞ、俺は。
周囲もつられて笑っている。
ふとパソコンを見ていると、ある映画の広告が視界に入った。
“羊たちの森”?
どうせ、羊たちがただ森を歩いているだけの映画なんじゃないのか?
タイトルからして興味をひかれないな・・・。
主人公が羊っていうのがまたシュールというかさ・・・。
「あ、それ俺も気になってたんだよね。
アメックス、一緒に見に行かない?」
「え、マジで・・・?
どうせ、羊たちが森を歩いてるだけなんじゃないか?」
「見て見ないとわかんないじゃん!」
「わかったよ・・・じゃあ、今夜行くか?」
「おっしゃ、行こうぜ!」
マジか・・・本気で見に行くつもりなのか?
羊の映画を見るだけでチケット代を支払うのは、正直気が引ける。
でも、イオンカードが楽しそうにしているから断れないし・・・。
まぁ、見てみる価値はあるかもしれないな。
そんな事を思いながら、仕事を進めていく。
毎日同じ仕事だけど、だからと言って手を抜くことはしたくない。
しっかりいつだってパーフェクトにこなしていきたい。
ちなみに、イオンカードには何人か兄弟がいる。
俺は直接会ったことがまだないが、みんな仲がいいみたいだ。
うらやましいな、仲が良くて。
業務時間が終了して、俺とイオンカードは早速イオンへと向かう事にした。
俺は詳しく知らないから、そのままイオンカードについていく。
「アメックス、こっちでチケット買うよ!」
「わかった」
チケットを購入してイオンシネマへと入っていく。
イオンシネマって、結構広くて沢山シアターがあるんだな。
中も綺麗になっているし、清潔感があっていいと思う。
俺たちは10番シアターと言って、一番広いシアターに入り自分たちの座席へ座った。
上演時間までまだ少し時間がある。
それまで画面には、ちょっとしたCMが流れている。
イオンカードが立ち上がって、席を離れた。
何だ、まだ何かあるのか?
俺は何も言う暇がなくて、イオンカードに聞けなかった。
数分経ってシアター内が薄暗くなり始めた。
そろそろ戻ってこないと、マズいんじゃないか・・・?
そう思ったら、イオンカードが戻ってきた。
イオンカードの手には全部で5個のポップコーンが。
「おい、なんだよ、その手に一杯のポップコーンはッ?!
お前、一人で全部食べ切れるのか?」
「何言ってるんだよ、この2つはアメックスの分だよ!
この中途半端は一緒に食べるやつ」
「こんなに食えるわけないじゃねーか!!
一人2つと半分とか、多すぎるだろッ!」
「余裕だって!」
そう言って、イオンカードが俺にポップコーンを渡してきた。
いや、こんな食えないって・・・。
大体、この羊たちの森って何分ある映画なのかすら分からないって言うのに。
すると、映画が上映され始めてシアター内が静かになった。
思ったよりも人が入っていてびっくりしている。
タイトルのままじゃなきゃいいけどな・・・。
そう考えていると、隣からむしゃむしゃ食べる音が聞こえてきた。
隣を見ると、イオンカードがポップコーンを食べ始めていた。
早いな、これって始まったと同時に食べ始めるもんなのか?!
しかも、かなりのハイペースで食べている。
すっげーな・・・俺も食べ始めなきゃ減らせない。
映画が始まり、映し出されたのは羊でみんな群れている。
ここまでは普通に可愛らしい映像となっていた。
この調子で終わったらどうしようか・・・。
「メェ~、メェ~!」
ザワザワ・・・。
木々が風に吹かれて樹の葉が揺れる。
そんな森の中を羊たちがトコトコ歩いている。
川を渡ってある一匹に羊がおぼれたり、おぼれているにもかかわらず助けようとしないとか。
草を食べて昼寝をして、そんな様子を大画面で見ているだけ。
これ、俺が予想していたまんまじゃないか?
いやだな・・・完璧にハズレ引いた感じじゃねーか・・・。
ふとイオンカードを見てみると、むしゃむしゃポップコーンを頬ばっていた。
マジかよッ・・・そんな食うもんじゃないだろ!
途中で何人か退席していくから、最初よりも人数が減ってきた。
あんなにたくさんいたのに、今では数十人しか残っていない。
それにしても、あれから1時間経っている。
意外とこの映画長いな・・・。
そのまま見続けても特に大きな変化も無くて、静かなままだった。
そして、ようやく終わってエンドロールが流れ始めてさらに退席者が増えて行く。
エンドロールは意外と短くて、すぐにシアター内が明るくなった。
俺もイオンカードも無言。
「・・・・なんか、ごめんな」
「ホントだっつーの!!
あれじゃあ、ナショナルジオグラフィックじゃねーかよッ!」
「アメックス、ナショジオ好きだからいいだろう?な!」
「な!じゃねーよッ!!」
確かにナショジオはキライじゃないけど、これは話が別だ。
映画館に来てまで見るものじゃない。
海とかだったらわかるけど、こんな大画面で羊を見てもしょうがない。
これだったら家でゆっくり見た方がまだいい。
しかも、この大量のポップコーン・・・どうすりゃあいいんだ!
勿体ないから、俺たちはポップコーンを抱えてそのままシアターを後にした。
「ふぅ!」
いきなりイオンカードがため息をつくから、何かと思い目を向けた。
すると、全くポップコーンが減っていないことに気が付いた。
あんなに余裕とか言ってたくせに、全然減ってねーじゃねーかよ!
マジでどーすんだよ!
すると、小さな女の子二人が俺たちを見ていた。
双子なのか、同じ髪型だし同じ格好をしている。
「ほら、良かったらこれ食ってくれ」
そう言って、俺は抱えていたポップコーンを渡した。
俺はもう食べきれないし、だからって捨てるのはもったいなくて出来ない。
だけど、子供なら食べてくれると思う。
食べかけの方ではなくて、まだ手つかずの方を渡してやる。
二人とも喜んでポップコーンを眺めている。
最近、映画館のメニュー料金が高くなっているから、親が買ってくれないという事もあるんじゃないかと思うんだよな。
「ありがとう、おじさん!」
「あぁ、“おじさん”・・・?」
「こら、アメックス、子供を怖がらせるなって」
「ありがとう、“おにーさん”!!」
「よしよし!」
俺はそう言って、二人の頭をくしゃくしゃに撫でた。
やればできるじゃないか!
おじさんって、俺はまだそんなに年齢高くないぞ!
そりゃあ、幼稚園生から見れば俺はおじさんかもしれないが、まだ早い。
二人はポップコーンを抱えて、たったか走っていく。
これで残り2つになった。
「アメックスおじさん、帰ろう」
「おいッ!!」
「アメックス、そんなにおじさんが嫌なの?」
「イオンカードおじさんは、平気なのかよ?」
「・・・」
イオンカードが真剣な表情をして考え込んでいる。
いや、そこまで本気の回答を求めてない。
俺はまだまだ若々しくありたいから、おじさんと呼ばれたくないだけ。
もちろん、こいつになら呼ばれてもいいって言う時もあるけど。
だけど、今はまだお兄さんと呼ばれていたいんだ。
「あれ、アメックス先輩とイオンカード先輩じゃないですか!」
そこに現れたのは、楽天カードだった。
手に荷物をかなり抱え込んでいるが、一体何なんだ?
袋の中を覗いてみると、その中には缶詰がたくさん入っていた。
そんなに買いだめして、缶詰がブームなのか?
実は、イオンカードと楽天カードはすごく仲が良くて、たまにべたべたしていることがある。
べたべたしていると言っても、そんな生々しい話じゃない。
何て言うか、親友過ぎると言うか。
「楽天カード、その缶詰何に使うんだ?
何か料理でもするのか?」
「あ、最近庭にネコが棲みついちゃって・・・。
腹空かせていると思って、イオンで買ってきたんですよ」
「おっ、毎度ありがとうござーい!」
「ござーい!」
ござーいってなんだよ!!
そんな挨拶聞いたことねーよ!
まぁ、楽しそうだからいいか・・・邪魔したくないし。