「くっそー、また逃したかっ!」
ずっと狙っていて注意もしていたはずなのに、入手できなかった。
あーあ・・・すっげー欲しかったのにな!!
予約できれば予約していたけど、なかなか難しくてそうもいかない。
もう机に突っ伏してうなだれるしかない。
あんなに可愛いもん、他にはないだろうからな・・・。
いくら後悔しても何も変わんない。
いっそのこと、誰かオークション出してないかな・・・。
「アメックスさん、どうしたの?」
「あ、サンエックスカードじゃねーか。
いや、どうしたも何も俺リラックマ買い逃しちまって・・・最悪だ・・」
「それ、私持ってるからあげましょうか?」
「マジで、なんでサンエックスカードが持ってんだ?
もしかして、買ったのか?!」
こいつはサンエックスカード。
年会費が永年無料でリラックマのキャラクターデザインとなっている。
毎月10日はポイント2倍で、サンエックスネットショップでの買い物はいつでも5%OFFになる、イオンと提携しているカード。
リラックマが大好きで、サンエックス商品が大好きなんだ。
ぬいぐるみが好きと言う子供っぽい顔も持っているが、仕事は出来る。
リラックマのぬいぐるみを、本当に俺がもらっていいものなんだろうか。
サンエックスカードも好きと言ってるのにさ・・・。
「私、二つずつ買っているんで良ければどうぞ!
アメックスさんもリラックマが好きだったなんて知りませんでしたよ」
「だって、俺が好きだって言ったら引くだろ?」
「世間がどうなのか私には分かりませんが。
好きなものは好きでいいんじゃないですか?
無理に押さえつけたり隠しておく必要なんてないと思いますよ?」
「そう、か?
そう言われたのは、お前が初めてだ。
ありがとな!」
サンエックスカードは、優しい表情をして笑った。
今まで隠してたけど、別に言ってもいいのか?
引かれたりしないんだろうか?
俺はそんなことを考えながら、苦笑して見せた。
サンエックスカードは、俺の事を知っても全く引かなかった。
それだけでも、なんとなく嬉しく感じたんだ。
もらうことを約束して、今日は仕事を頑張ることにした。
それから3日後。
サンエックスカードが俺の元に、リラックマのぬいぐるみを持ってきてくれた。
思っていたよりもコンパクトで、少し安心した。
リラックマは、冬の格好をしていて、マフラーとポンポンのついた帽子をかぶっていた。
それはすごく可愛らしくて、机に飾っておきたいくらいだった。
「ホント感謝する、サンキューな!」
「ううん、気にしないで。
アメックスさん、なんか可愛いよね」
「可愛い言うなッ!」
「ふふっ」
サンエックスカードが笑っている。
そんなに意外だろうか?
男だって、ぬいぐるみが好きな奴はいるだろ。
別に珍しいことじゃないんじゃないか?
せっかくだから、俺はリラックマを机の上に置いて飾った。
よしよし、可愛いじゃないか!
これだったら、今後仕事もはかどりそうだな。
ふと、サンエックスカードの机の上を見ていると、リラックマやこげぱんが置かれていた。
そんなにたくさんではないが、少しぽんぽんと置かれているのが見えた。
まぁ、仕事に差支えが無ければ置いてあっても問題はない。
皆の机の上にも色々なものが置かれているし。
楽天カードの机の上には、プロ野球に関するものが置かれている。
JALカードの机の上には、飛行機の写真が貼ってあるし。
皆好きなように、自分の机をカスタムしている。
「アメックス、ぬいぐるみ好きだったのか?」
「ああ、これだけは好きなんだよな」
「それなら楽天市場で頼んだらいいじゃないですか!
たくさんでてくるし、最安ショップも探せるから、オススメですよ」
「だめっ、サンエックスショップがいいよ!」
楽天カードが目を輝かせながら言うが、サンエックスカードがそれを阻止する。
正直、俺はリラックマストアの方がいいと思うんだが・・・。
きっと黙っていた方がいいんだろうな・・・。
二人して白熱するものだから、みんなが
間に割って入っている。
「そうだ、アメックスさん、今度東京駅のリラックマストア行きませんか?
すごいたくさんグッズ揃っているから、きっとめぼしいモノ見つかるよ!」
「うっしゃ、行ってみるか!」
リラックマストアって、まだ行ったことないんだよな。
広いんだろうか。
俺たちは盛り上がって話を膨らませた。
サンエックスカードが嬉しそうにしている。
俺たちは仕事に戻って、今日の分の仕事を片付けて行く。
大変だけどやりがいがあるし、最近では少しずつ楽しさを見出している。
リラックマもいてくれているし、心強いな、おい。
それから日曜日になって、俺は東京駅でサンエックスカードと待ち合わせをした。
一応八重洲口に出てきたんだが・・・あ。
その時、サンエックスカードがやってきた。
「お待たせ、ストアはね地下のキャラクターストリートにあるんだ!
ささ、早く行かなきゃ混んじゃって見られなくなっちゃうよ!」
そう言って、サンエックスカードが俺の腕をつかんで走り出した。
おっ、やけに張り切ってるな!
俺もそのまま一緒に走って、ストアへと向かっていく。
しばらく走っていくとキャラクターストリートに出た、
他にもいろんなキャラクターの店が並んでいて、すごく気になった。
次の瞬間、目に飛び込んできたのは行列だった。
なんだ、あの行列は・・・。
それはグリコの店で、みんな出来立てのポテトチップスやアーモンドチョコを食べたくて並んでいる様子だった。
ちょっと俺も並んで食ってみたいかも。
「アメックスさん、よそ見しないのっ!」
「お。おうよ!」
サンエックスカードが怒っている。
普段、あんな穏やかで落ち着いているというのに珍しいな。
ストアに着くと、すでに何人もの人たちが集まっていた。
すごい人だけど、ストア自体はそこまで大きいわけではなかった。
だけど、たくさんのリラックマグッズが並べられていて、目移りしそうだ。
ぬいぐるみとかステーショナリーとか、可愛らしいものがたくさん置いてある。
サンエックスカードは、すでにいくつかグッズを確保していた。
「ちょっと待て、お前確保するの早くね!」
「アメックスさんが遅いんですよ!
あっ、アメックスさん、その上の棚にあるクマちゃん取って!!」
「俺はお前の付き添いかッ!」
「いいから、早く!!」
「はい」
俺は素直に従うしかなかった。
いやぁ、サンエックスカードってリラックマのことになると人格変わるんだな・・・。
普段はいいやつだけど、今はちょっと一緒に行動したくないな・・。
いつこき使われるか分かんねーし。
何より、さっきと目つきが違うっていうのも恐ろしいわ。
そのままレジへと向かっていくサンエックスカード。
やっべ、俺まだ自分の買ってねーし!!
俺は急いで店内を見回して、ほしいものを探し始めた。
いくつか可愛らしいマスコットを手に入れて、レジへ行く。
「アメックスさん、これクレジットカードなんで!」
「おっ、びっくりした!!」
そう言って、サンエックスカードが俺にクレジットカードを握らせて素早く姿を消した。
あいつ、ちゃっかりしてんなー・・・。
このクレジットカードを提示すれば、5%OFFにしてくれるらしい。
つまりこのカードで支払いをして、後から俺が返金すればいいのか?
とにかくレジを済ませて、カードをサンエックスカードに返却した。
「カードサンキューな!
5%引きで助かったわ」
「アメックスさん、返金返金!」
「・・・お前、やっぱりちゃっかりしてんのな」
別に悪い奴じゃないんだけど、ホントちゃっかりしてると思う。
いや、いいやつだよ、サンエックスカードは。
俺は一人でそう考えながら笑った。
何だか、親に欲しいものを買ってやると言われてがっついている子供みたいなやつだ。
感情とか反応の仕方が純粋と言うか、人懐こくて愛嬌のあるやつだ。
まあ、これはこれでいい思い出になるからいいか。
俺たちは両手に大きな袋を抱えながら、東京駅内をぐるぐる回った。
さっき気になっていた、グリコの店にも行って出来立てのポテトチップスとアーモンドチョコレートを食べられたし、大満足だ。
サンエックスカードも満足と行った満面の笑みを浮かべている。
「おいおい、口元にチョコついてんぞ」
「え、ほんとですか?」
「仕方ない奴だなぁ」
そう言って、俺はポケットティッシュで口元をぬぐってやった。
サンエックスカードは、恥ずかしそうに笑った。
まるで妹みたいな奴だな。
俺たちは周りから見たらどんな風に見えているんだろうか?