実は以前から気になっていたことがあるんだが、それは車の免許について。
俺は免許証を持っていないから、車の運転が出来ない。
いつか取得しようと思っていたが、なかなか思い切れなくてそのままになってしまっていた。
教習所に通う時間が取れないと言うのもそうだし、お金がかかるっていうのもなんかしっくりこなくて。
今は電車が充実しているし、車で行くよりも電車で行った方が早いと思ってる。
ただ、電車だと自分のペースで移動できないことがつらいだけ。
でも、やっぱり免許だけは持っておくべきだろうか。
実は、内心交通事故に恐怖感を持っているというのも一つの理由かもしれない。
俺は車の雑誌を眺めながら、色々考えていた。
「アメックス、何見てるの?」
やってきたのは、さくらカードだった。
さくらカードは年会費が1312円でETCカードと一体になっている。
高速道路や給油料金に応じてキャッシュバックされるキャッシュバックコースと、利用額に応じて貯まったポイントを交換できるOkiDokiポイントプログラムコースの二つから選べるようになっているんだ。
さくらカードは、すごく活発的で暇さえあればあちこち動き回っている。
じっとしていることが苦手で、休み時間も常にうろうろしている。
落ち着きがないのが短所だが、俺と違って車の運転はかなりうまい。
「車の免許を取ろうか悩んでてさ」
「アメックス、まだ免許証持ってないの?
車に乗れないと何かと不便じゃない?」
「いや、電車の方が早いからさ。
だけど、カッコイイ車乗ってみたいんだよな~」
「アメックスも教習所行きなよ!
車の運転って、気持ちよくて楽しいんだから!」
確かに、言われてみれば楽しそうだ。
ドアの窓や天井の窓を開けたりして運転すれば、解放感があっていいだろうし。
音楽を流しながら運転するのもいいだろうな・・・。
さすがに電車ではイヤホンをしなきゃいけないし、自転車だと流せないし。
自由気ままに運転してどこかへ行けるっていうのも魅力的だ。
「さくらカードは、いつ免許取得したんだ?」
「私は18歳になってすぐに教習所に通ったんだよ。
ほら、私が住んでる場所は田舎だったし、車が無いと不便だからね」
「そうか・・・早かったんだな。
俺も免許は欲しいけど、自信ないんだよな・・・」
本当は免許が欲しいけど、試験に受かる自信がない。
標識とかルールとか、覚えることが多すぎて無理な気がする。
助手席に座っている方が、俺には似合っているのかもしれない。
さくらカードは、車の運転が上手でしょっちゅう高速道路に繰り出しているみたいだ。
スピードが出せるから、ストレス解消がてら走ることもあるんだとか。
スピードを出して走ったら、さぞかし気分がいいだろうな。
「そうだ、じゃあさ、アメックス私の車乗せてあげるよ。
それから決めればいいじゃない。
助手席に座って、実際にどんな感じなのか経験してからでも遅くないし、ね!」
「俺が一緒に乗ってもいいのか?」
「構わないって!
どうせなら、他のメンバーも誘って遠出でもしてみようよ。
今度の日曜日、私が皆の家に迎えに行くからさ!」
「・・・おう!」
今度の日曜日にさくらカードと一緒に出掛けることになった。
さくらカードが乗っている車の色はブルーで落ち着いた色らしい。
女の子は、赤とかピンクとかかわいらしい色を選ぶかと思っていたが、さくらカードは違ったようだ。
大きな車ではないけど、乗り心地がいいらしいからちょっと期待。
他にも一緒に行くメンバーが出来て、当日はドライブすることになった。
たまにはドライブをして景色を眺めながら、疲れを癒すことも大事だという事で。
みんな納得して、それぞれの仕事へと戻っていく。
それからあっという間に、日曜日を迎えた。
さくらカードは最初に俺の家まで迎えに来てくれたから、助手席に座った。
思っていたよりも眺めが良くて、運転席じゃなくてもいいような気がしてきた。
だけど、今まで車って後部座席しか乗ったことが無いから、新鮮だった。
助手席から見える景色がこんなに綺麗なら、運転席はもう少し違うのかもしれない。
「アメックス、どう?」
「おう、なんか思ってたよりもスゲーな!
すごすぎて、今ちょっと感動してるところだ」
「感動って、そんなに?」
「車なんて乗らないから、新鮮なんだよな。
運転するのは怖くないのか?」
「ぜーんぜん、ただ道を譲るときとか大変だけど。
慣れちゃえば問題ないよ~」
そういうもんなのか・・・慣れれば大丈夫だってみんなして言うけど。
その慣れるまでが長いんだよな・・・俺なんかいつになれば慣れるものか。
さくらカードは、軽やかに運転捌きを俺に披露してくれている。
俺だったらそんな華麗に運転なんか出来ないだろうな。
そのままメンバーの自宅を順番に回っていき、気が付けばすでにみんな集まっていた。
ドライブで少し遠出するから、途中でコンビニへ寄って食べ物や飲み物を買っていくことにした。
これで準備万端、さていよいよ出発だ!
車だとこうやってみんなと自分のペースで進むことが出来るからいいかもしれないな。
電車だと人目を気にしなくちゃいけないから、なかなか楽しめない。
「アメックス、車の免許取るのか?」
「そうそう、私も聞いた!
車の免許取るのって大変なんでしょ?」
「ああ、今考え中なんだ。
やっぱり運転できる方がいざという時はいいよな~・・・」
色々考えても答えが出てこない。
俺に彼女がいれば間違いなく免許を取っていただろうけど。
気分転換に一人で出かけるのもいいなと思うし・・・。
勉強するのも大変だし金もかかるが・・・やっぱり免許くらい持っておきたいかもしれない。
それに、誰かが何かの事情で運転できなくなっても代わりに運転してやることも出来るだろうし。
「よし、俺も頑張って免許取るぞー!」
「お、いいぞアメックス!」
「じゃあ、その時は私が助手席に乗ってあげるよ」
皆が笑いながら言うから、俺もつられて笑ってしまった。
免許をとっても損な事は無いし、持っていて困る事も無い。
これから少し忙しくなるかもしれないけど、頑張りたいと思う。
その後、俺たちはドライブを夜まで楽しんで解散することになった。
帰る時もさくらカードが一人ずつ自宅まで送ってくれた。
何度見てもさくらカードの運転捌きがすごいと思う。
スムーズに曲がることも出来るし、バックだってへっちゃらで。
女で運転がうまいのは数少ないと思うから、本当に尊敬する。
気が付けば、車内には俺とさくらカードだけになった。
「アメックス、免許取るとき絶対教科書見直した方がいいよ。
問題を出す教官にもよるけど、意地悪な問題とか出るから気を付けて」
「そうなのか・・・わかった!
まずは申し込みをして、それからだよな!」
「アメックス、意外と取れなかったりして」
「なんだと!」
さくらカードが笑いながら言うから、俺はふざけて怒った。
車の免許は大変だと思うけど、勉強して実習すれば何とかなると思う。
勉強が出来ても実技試験で落とされてしまう事もあるし、その逆も考えられるらしい。
実技試験は自信ないが、勉強なら何とかなるんじゃないかと思う。
そう話すと、さくらカードが少し表情を歪めた。
覚えることが多いから、実際はそんな簡単には行かないとさくらカードが言う。
確かに、想像と現実は大きく異なるもんな・・・。
「送ってくれて、ありがとうな!
俺、教習所頑張って通ってみるわ」
「うん、頑張ってね」
そう言って、さくらカードと別れた。
俺も免許をとったら、一人でドライブでもいけるようにしたいな。
さぞかしいい気分転換になるだろう。
それから俺は教習所へ行き、申し込みをして講習を受ける事になった。
俺が思っていたよりも覚える事が多くて、悪戦苦闘するばかり。
さすがに厳しいな・・・おじさんだから聞き取りにくいし。
だけど、頑張って学んでいかなければ、次に進むことが出来ない。
仕事をしながら教習所へ通って勉強をして、という毎日を繰り返し続けて行く。
そんな毎日に俺は少しやりがいを感じていた。
それから一か月後。
俺は休憩中、机に突っ伏していた。
何て言うか、すごく疲れてやる気がなかなか起きないんだよな~・・・。
はぁーあ・・・。
「聞いたわよ~、アメックス!
教習所の試験、落ちたんだって?」
「そうそう、バックがすごくて落ちたんだよなぁ・・・。
って、悲しいコト思い出させんなっ!」
「あはは~っ、さすがアメックス!」
「さすがってなんだ!」
さすがって言われる意味が分からない。
期待を裏切らないという意味なんだろうか・・・どっちにしろいい意味じゃないな。
でも、バックがうまくいかなかったから試験には通れなかった。
筆記試験はいい点数だったと言うのに。
それは教官にも言われたんだ、“君はバックさえできれば好成績だったのに”って。
バックをしたが、助手席に座る教官に怖いと言われるほど、俺はひどかったらしい。
壁にぶつけてしまうし、うまく駐車できなくて苦労した。
何度練習してもうまくいかなくて、こればっかりはダメだと思った。
これは何度練習しても俺には出来そうにない。
毎日練習すればいつかうまくなるかもしれないが、何だか自信がない。
「アメックス、その・・・今度から助手席乗りなよ」
「憐れんだ目で見るのはやめろーっ!!」
「あはは、俺の助手席も空いてるぞ!」
「イエーイ!!」
「おいっ!!」
皆が笑って俺の髪をくしゃくしゃにしたり、好きなようにしている。
怒る気力が失せてしまって、俺はそのままうなだれるしか出来なかった。
だが、それから俺はさくらカードの助手席に居座るようになったのは、まだ先の話。